第16話 ミスター結城と後夜祭

 クラスのパフォーマンスの余韻に浸る間もなく、ミスター結城ゆうきの準備を始めないと間に合わないという状態だった。


「あ、美琴みこと。これ」

「了解」


 わたしは髪型を変えてすぐに洋服に着替えて、メイクを少しだけ変えていくと日菜がかっこいい高校生に変わったのが見えた。

 ショートカットになった彼女は無理やり結った男子高校生を演じている。


 一方、クラシカル部門に出る宮野みやのさんは普通にオールバックから前髪を横に流して、和服に袖を通しているのが見えた。

 渡辺わたなべさんもハーフアップにリボンを結ってきれいな振袖を一人で着付けているのがすごいと感じてしまうところだ。


「すごいよね。宮野さんたちの和服」

「うん」


 その後に行われたミスター結城を選ぶ男装コンテストがスタートして、毎年恒例の人気コンテストのためか中等部からもお客さんが見に来ているんだ。

 観客席は満員でとても緊張している下級生が何人も見える。


日菜ひな。大丈夫そう?」

「うん。この部門で優勝してみせるよ」

「そうだね」


 ステージの緞帳が上がると大きな歓声と共にスタートして、最初に行われたのはエントリーされたクラスの代表生徒が立っている。

 宮野さんの背の高さが舞台袖からでもすごく際立っている。

 宮野さんはとてもきれいな立ち姿で着流しを着て、朝ドラに出てきそうな若旦那みたいだなと思う。


「ヤバ」

「わあ……似合いすぎてない?」

「うん。のんちゃんかっこいい」


 隣にいる渡辺さんはうっとりしているのが見えたけど、わたしはその前にあるパートナーと歩くことをするのが緊張してしまう。


「美琴。こっちに来てね」

花織かおるはこっちにおいで。歩きにくいと思うけど早く」

「うん」


 そのときに着物を着ている渡辺さんは普通に歩いていることが多くて、すぐに一年生からのランウェイがスタートしたんだ。


「続いて三年四組の鈴原すずはらさんです」


 アナウンスと歓声が同時にあって、わたしは少し緊張しながら手を握って日菜の隣を歩いて行くんだ。

 無言のままでもいいと言われてからはすごい楽な姿勢で歩くことができている。


 そして、ランウェイの一番お客さんたちに近いところで日菜がバックハグをするシーンがすごい盛り上がりだった。それを終えてからすぐに舞台袖に戻ると宮野さんと渡辺さんたちがすごい悲鳴に近い黄色い歓声が上がっているんだ。


 舞台袖から見えたのは手を取り合っているのは普通なんだけど、二人とも役に入りきっているので恋人同士にも見えるような雰囲気が周りに流れているのが見えた。


 そのときに耳打ちをしてから渡辺さんが顔を赤くして頷いているのが見えたの。それがとてもリアルだなと思ってしまう。


「すごかったよ」

「うん。ありがとう」

「のんちゃん。あそこで……告白するの、やめてくれない?」

「え、ダメなの?」

 それを聞いてナチュラルすぎてびっくりしてしまったんだよね。

「宮野さんって渡辺さんのこと」

「うん。好きだよ、小さな頃からね」


 あの時に告白したんだなと思ったけど、誰にも聞こえないところで言うのはすごいと思う。


「それじゃあ、もうすぐ結果発表が起きるみたいだね」

「うん」


 ミスター結城の審査結果はその場に来ていたお客さんたちに投票してもらうシステムで、ここでフリー部門とクラシカル部門の二部門でグランプリが決まってミスター結城はそのどちらかに選ばれることになっている。


「特別賞は鈴原日菜さんです」

「うわ~! マジか」


 日菜は特別賞に選ばれて、ステージで何かをもらっているのが見える。

 その次に行われたのは各部門の一位が選ばれて、二年生の子と宮野さんが選ばれているんだ。


「今年のミスター結城は……宮野希実のぞみさんです! 殿堂入りおめでとうございます!」


 それを聞いた宮野さんは驚きの表情から笑顔で実行委員から記念品をもらっていて、ミスター結城の座を三年間譲らなかった彼女は十年ぶりの殿堂入りを果たしたことになっているんだ。


 文化祭の終わりが近づき、奏さんを見かけることはなかったんだ。


 それも仕事もあるだろうし、わたしは日菜と高等部のいろんなクラスの出し物を経験してすごい楽しかったなと思っているんだ。


 あとおいしい食べ物を食べたりしたから太りそうだなと感じたりしている。



「あ、もう終わりなの?」

「うん。今年は後夜祭ってするの?」

「するでしょ? なんなら自分も出演を依頼されてるんだからね」


 わたしはダンスの有志グループによるダンスを体育館ですることになっているんだ。それも自分だけフリーダンスを行うことになっているんだよね。


 流れてきたのはダンスを始めたときから習っているときにすぐにステージの上で踊り始めたんだ。

 わたしはお母さんから借りてきたMa-1を羽織って踊ることにしたんだ。

 その後にヒップホップの曲が流れてくると、ダンス部に混ざって一人で踊るソロを任されて踊りだしたりしていた。


「美琴すごい!」

「すごいね」


 そこから跳びあがったり、腰や胸などのアイソレをしたりすることがあったり、かなり激しい振付でも踊ることで歓声が上がって、テンションが上がって体の疲れもあまり感じることがなかった。


 体育館を出て教室に戻って支度をしてすごいなと思っているなと感じているんだ。

 三年間の文化祭が終わってしまったなという気持ちが徐々に広がっていくことがある。


「それじゃあね。美琴!」

「バイバイ」


 すぐに家に帰ろうとするととても楽しかったなと思い出してしまう。


 キラキラしたような時間がもう過ぎてしまって、もう受験が始まろうとしているのが見えているんだ。

 そのときに駅の改札で見慣れた姿があって、少しだけドキドキしてしまうのが見えているんだ。


「あ、かなでさん」

「美琴、家まで送ろうか?」

「ありがとう」


 奏さんと一緒に歩いて行くのが久しぶりでとてもドキドキしているし、制服姿で並んでいるのは少しだけ慣れていない。


 手を繋いでくれて、それがとてもワクワクしているんだ。

 夜の風景がとてもきれいに見えて、奏さんの顔をチラチラと見てしまう。


「ダンス良かったよ。文化祭の」

「あ、ありがとう。とても楽しかった」


 その話題を聞いて奏さんは家へ送ってくれるときに何とも言えない表情でこっちを見ているのがわかっているんだよね。


「俺、あんなに踊る美琴は初めて見たからびっくりしてて」


 たしかに明日香あすか姉ちゃんの披露宴ではゴリゴリに踊っていたけど、それ以上に頭のネジが吹っ飛んでしまって文化祭のステージの記憶がおぼろげにあるくらいだ。

 特に後夜祭なんてあまり覚えていないんだよね。


「うん、久しぶりにああやって踊ったな~。奏さんは披露宴でしか見てないと思うけど、今日のが全力だよ」

「そうなんだね」


 お互いに話し合うことはとても多くて、久しぶりに会ったこともあるのかもしれないけど……とても好きな時間。



「それじゃあ、またね」

「うん。受験がんばるね」

「そうだね」

 とても名残惜しい感じで繋いでいた手を離すことができなかった。

「それじゃあ」


 奏さんに不意打ちにキスをされて、すぐに帰っていったのがびっくりしたんだ。

 心臓のドキドキが抑えることができないまま、家に入ると母さんがとても笑っているのが見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る