第15話 文化祭2日目
高等部の校舎の階段あたりで
体育館の方から歩いてきたみたいで、遠くからざわめきが聞こえてくる。
ここは出し物とかが少ないので比較的静かな場所でもあるんだよね。
「
「うん、ダンス。見てたの?」
「ああ……それね。すごいかっこよかったし、その……楽しそうだった」
そう言うとすごい奏さんは少し恥ずかしそうな表情をしている。
「どうしたの?」
「なんでさ、あんなに激しく踊れるの?」
「う~ん。覚えてない」
そう言うと奏さんがギュッと抱きしめてきて、心臓の鼓動がとても激しくなっているんだ。
待ち合わせに使ったのは屋上に繋がる階段で、生徒はまず来ないような場所だった。
「キスしたい」
「でも」
奏さんは学校のカメラマン、わたしは生徒という関係でここにいる。
「わかってる」
そっとキスをする。学校だということがとてもドキドキしているし、誰かに見られていないかという気持ちになる。
「これは二人だけの秘密な」
「うん……また」
わたしはすぐに走って教室の方へと行くと、
「どうしたの? 顔赤いよ」
「大丈夫、何でもない」
そうして初日は終わってしまった。
二日目は
樹利以外はフィギュアスケートのシーズンだけど、オフの日に文化祭のスケジュールが合って良かったと感じているんだよね。
「あ、
「うん。偶然だね」
わたしはみんなが話している間に樹利と話をすることにしたんだ。
こうして話すのは滅多にないことが多いはずだ。
「久しぶり」
「おはよう」
「ダンスの発表、楽しみにしてる」
「ありがとう。めちゃくちゃ踊りやすい空気なんだ。ダンス部にいるときよりも」
中学時代みたいに楽しくて仕方がない、音や空気も優しくてとても踊りやすい。
ダンス部はこんな感じじゃなくて殺伐とした状態で踊るのは心身に限界があると思うくらいだ。
自分でのびのびと表現できるようなことが好きなんだよね。
「そっか。良かったよ、
それを聞いてドキッとしてしまった。気づかれていたんだ。
「うん、実は二十四歳のカメラマン。あそこにいる」
「え、マジで? イケメンじゃない」
樹利はとてもびっくりした顔をして、写真を撮影している彼の方を向いているの。
その後にこっちを向いて笑顔でこっちを見ている。
「すごいね。美琴、良い人を見つけたね」
「ありがとう。わかるの?」
「うん。元カレよりもいいよ。あいつ、結城の子とつきあってるって言ってたじゃん」
「それは知っているよ」
「別れたって」
それは初めて聞いたけど、長くは続かないみたいだった。
紘一は別につきあっていたけど、いま考えるととても不思議な感じだった。
「あ、そろそろ時間」
「わかった。会場で待ってて」
わたしは衣装に着替えて体育館へと行くことにしたんだ。体育館にはダンス部の人が何にもいるのが見えたんだ。イヤホンをして普通に練習をしていくことにしたんだ。
軽くステップを踏みながら練習をしていると、市ノ瀬さんがすぐに戻ってきて気合の入ったような顔をしている。
フィギュアスケートの試合にもこういったような顔をしているのかもしれない。
「がんばろうね」
「うん、ありがとう。
「栞奈で良いよ」
「じゃあ、栞奈。上げて行こう」
「うん」
すぐに体育館は暗くなってダンス部のパフォーマンスが終わってすぐに舞台裏に繋がる階段を上っていく。
すぐに司会の子たちが緞帳の向かい側に行って話を始めて行くと拍手が聞こえてくる。
「みんな、行くよ」
「うん」
円陣を組んで昨日とは演出を変えて、踊る振付は変えずにフォーメーションだけ変えたものになったんだ。
緞帳が上がると悲鳴に近い歓声が聞こえてきて、照明がまぶしくステージを照らしている。
わたしは目を細めながらすぐに立ち上がって音楽が流れて
「かっこいいよ! 藤島さん」
「
その後にも楽しそうに踊り出すみんながいて、上手い下手なんて関係ないダンスで笑顔の人がとても多い。
そのなかで舞台の両袖からロンダート宙返りをする子が二人飛び出してきて、大きな歓声が上がってくるのがわかっているんだ。
その後にわたしが光のなかへ飛び込んで得意なジャンルのダンスを始めて、既存の振付をできるだけ壊さずに自分なりのアレンジをしていくのがとても楽しい。
「美琴~‼ いけぇぇえええ」
すぐに樹利の声が聞こえてきてすぐに栞奈が舞台袖から走り出して、ステージ上でスケートのジャンプを跳んでいるのが見えた。
それがとてもかっこよくて着地をしているとどよめきが上がっていた。
「すごいなぁ!」
そこからハイタッチしてからは笑顔ですぐにダンスのフォーメーションを変えながら踊っていくんだ。
樹利たちの笑顔が見えて、とても楽しそうだ。
わたしはこうした笑顔が見たくて、高校でもダンスを続けていたはずだったのに。
忘れていたかもしれないことが思い出せて、泣きそうになってしまうんだ。
そのときにギターのイントロが流れてくると、手拍子が起きてノリノリでみんなが踊っている。
センターで踊ることも抵抗がないし、すごい歓声が体に響いて気持ちがいい。
最後に二曲連続でフリーダンス始まって、最初はヒップホップっぽいものだった。
イントロとAメロが違うけど電子音みたいなのにも音を合わせて、狼の遠吠えに近い声でメリハリをつける。
サビに入るとヒップホップさが増して、左右にリズムを取るシャムロックではすぐにリズムに任せているんだ。
ラップパートからは栞奈と藤島さんの掛け合いになって、わたしは脇で踊っていくけど手は抜かない。
最後のサビ前のメロディーではバレエみたいなトウステップをしてから、すぐに狼の遠吠えですぐに豹変するように踊りが変わっていく。
最後のサビはとても激しく踊り出して、フィニッシュで燃え尽きるみたいなイメージで行く。そんな感じで曲が終わるから。
それが終わって拍手の合間にピアノのイントロが聞こえて、すぐに二人が出てきて叫び声が聞こえてきたの。
まるでそこが宝塚の舞台みたいになっているのが見えた。
汗だくのまま舞台袖から二人を見つめていた。
掛け合いはミュージカルを見ているようなもので、ジャズダンスを踊っているのが見えた。
ときどき手を繋いでターンをするのが見えて、歓声を拍手が聞こえてくるんだ。
「すごい……二人とも」
「かわいいし」
「あんまり打ち合わせしてないのに揃っている」
お互いに通じ合っている何かがあるのか、とても笑顔で息の合った振付を踊っている。
宮野さんは初日よりも着崩したようなスーツで、お互いにディスコ帰りみたいな雰囲気が出ているんだ。
「すごいなぁ……あんな表現ができるんだから」
最後のダンスまでエンジン全開で走りきったダンスは普通に楽しかったんだ。
たった二度しか踊らなかったけど、とても充実したパフォーマンスになった。
お辞儀をして緞帳が下がっても鳴りやまない拍手と歓声は二度と無いかもしれない。
それが耳と胸に焼き付いている。
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