第9話 夜の帰り道

 揺れる車内のなかで小声でそんな会話をしていると、あっという間に新宿駅で乗り換えて高田馬場駅まで乗って、西武線に乗って帰る。


 それからかなでさんと話すことは尽きない。

 文化祭の演目でダンスをして踊ること、それを体育館のステージで踊ることとかも話した。


「そうなんだ。美琴みことが踊ってるところ好きだよ。結婚式の余興もすごかったよ、あれ結構好評だったもんな」

「うん。それとは違う曲とかもあるけど、とても楽しいよ」

「練習とかっていつしてるの?」

「練習は放課後とかかな。でも、最近は時間が無くてそれぞれ自主練をしてる」

「そうなんだ」


 わたしは練習のときは全力で踊ることができるのがとても楽しいんだ。

 小中学生のときみたいに踊ることは少ないけれど、ひそかに踊ってみた動画を参考にして踊ることが多いんだ。


「すごいよね。美琴は自分のことを表現して」

「そんなことないよ。他にも踊れる子はいっぱいいるんだしね」


 奏さんはわからないと思う。

 ダンスは振付を完璧に踊れるかつ、それぞれの個性を光らせるかが試されている。


 ダンス部では個性が重視されることもあったけれど、それ以上に人間関係がすごい大変だったし。


「なんで瀬倉せくらさんだけ選ばれてるの?」

「どうせ顧問にひいきされてるんでしょ? そんなにダンス上手くないのに、唯香先輩の方が上手いのに選ばれて、マジでキモいんですけど」

「わかる~、あの子をハブらない? どうせ半月でいなくなるでしょ? この前だって辞めていったのいるし」

「良いよ! それじゃあ」


 わたしはそのことを聞いてからは何となく部活に行くことも嫌になった。

 練習も一人で振付を覚えたりして、小中学生のときよりも動くことができない。


 それで高校でダンスを全力でやりたくないと思っていた。

 でも、体育祭とかは普通に踊ることができたのが不思議だったんだ。


「今度遊びにおいで。俺の家に、そのときはひびきも歓迎していると思うから」

「うん。響さんって就活は」


 奏さんの弟で大学四年生の響さんはいま忙しい時期じゃないかなって思っているところだ。


「ああ、それなんだけどね。もう内定をもらっているんだよな……念願の職種に就けたみたいだし」

「そうなんですか⁉ すごいなあ」

「そうなんだよな。俺もびっくりした……外資系の企業だぞ? しかも大手の」


 響さんが内定をもらったのはとてもすごい人気な企業であることは母さんが仕事で何度か電話で名前が挙がっていたところだった。

 それを聞くとすごいなと感じているところだ。


「すごいな……実力主義だよね」

「うん」


 わたしはそれを聞いてすごいなと考えていた。


「そう言えば。響、就職したら引っ越すって話してたな。恋人と同棲するからって」

「へえ。良い人がいるんですね」

「響が選ぶやつだからな、とても信頼しているみたいだし」


 奏さんがスマホで写真を見せてくれたんだ。

 仲良さそうに響さんの隣で肩を組んで笑顔でピースサインをしているのが恋人かもしれない。

 とても良い人そうな笑顔で性格がにじみ出ているような気がする。


「響、今日から恋人の家に泊まりに行ってるよ」

「そうなんだ。楽しみだったのかもしれないですね」

「うん。あ、勉強会どうする?」

「ああ……それじゃ、家で教えてくれませんか。うちの」

「良いけど? どうして」


 奏さんは少しだけ不思議そうな顔をしているのが見える。


「あ、父さんが早めにバイクでツーリングしたいから、予定を聞きたいんだって」


 父さんと奏さんはバイクという共通の趣味を持っていて、早くツーリングに出かけてみたいと話しているんだ。


「ああ、なるほどね。美琴のお父さんってすごい良いバイクとか持ってるの?」

「わからないけど。これかな……昔乗せてもらったけど」


 わたしはその写真を見せて、奏さんがめちゃくちゃ驚いているのが見えたんだ。


「マジで⁉ めちゃくちゃ高いんだぞ、あれ」

「なんか自分が生まれたときに奮発して買ったみたいで」


 そんなこんなで話しているとすぐに家までやってきてしまった。

 ドアを開けてくれた父さんが明るい笑顔でこっちを見ているのが見えた。


「あ、奏くん。今日、ご飯食べていきなよ」

「良いんですか? それじゃあ、お言葉に甘えて」

「父さん、良いの?」

「うん。予定を話したくてね」


 父さんと奏さんは意外と共通の趣味があったりして気が合うみたいだ。


 ちなみにそれがバイクとか車とかの話が多めで、いつ行こうかという話をしているのがわかる。

 しかも奏さんが繫忙期に入る九月からは入れないようにしているみたいだ。


 楽しそうに話をしているけれど、バイクのことはさっぱり知らないのでついて行けない


「父さんと奏さんってツーリングに行くの?」

「うん。もともと計画はしてあるんだよ。奥多摩湖の周遊道路を回る感じで」

「へえ……でも、父さんって学生時代に大ケガして死にかけたのに、よく乗っていられるね」


 それを言うと奏さんは驚いていた。


「奏くん、この話はガチだよ。俺が大学一年のときに入学して半月で大型に乗って事故ったから」

「父さん……それよりご飯を食べない?」

「良いよ」


 わたしはリビングでご飯を食べることにして、今日の夜ご飯は冷しゃぶだ。

 父さんはすぐに楽しそうに奏さんとわたしを見ている。


「そうだ。奏さん、今度カラオケに行きません?」

「良いね~。俺も歌うの好きだから……楽しみ」

「そうだな。美琴は推薦でも、勉強はしておけよ」

「うん」


 わたしはすぐにご飯を食べてから先に部屋に戻って勉強する科目を探していく。


 ロッカーから全て持ち帰って来たので、本棚に入らなかった教科書はローテーブルに積まれている。

 そのなかで日本史と世界史、英語のワークと教科書を持って一階に戻る。


「あ、美琴」

「父さん、吸ってた?」


 庭のテラスで奏さんと父さんが何かを話していたみたいだった。

 そこで父さんは煙草を片手に持っているのが見えて、奏さんも同じように煙草を吸っていたのかもしれない。


 でも、衝撃はあまりない。

 何となく感じていたことだったし、家族に喫煙者がいることも大きいのかもしれない。


「うん。少しだけね、そろそろ奏くんは帰る?」

「そうですね。だいぶお邪魔したので、今日は」

「わかった。またね、美琴」

「うん」


 奏さんがすぐに支度をして手を振って駅の方向へ戻っていくのが見えた。

 すると父さんがリビングに戻って来た。


 そのまま携帯灰皿を机に置いてすぐにテレビを見始めた。

 テレビでは総理大臣が亡くなって一か月経つということが放送されている。


「奏くんとは順調?」

「え、そうだけど……? どうして」

「いや。幸せそうに見えたから……ちょっと悲しかった」


 それを聞いて何となく寂しげな顔をしているのがとても印象に残っていた。

 わたしは風呂に入ってから、勉強を始めた。

 でも、煙草を吸っている奏さんの姿が頭から離れなかった。

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