第17話
右耳が聞こえなくなって、仕事もなくなって、さぁどうしようか。
必死になって取った資格が使えないとなると、急に私は何もない人間なんだと思えてならない。
職を探すにしても、右耳が聞こえないことがネックでなかなか気合いが入らず、春馬くんが聞いてこないのをいいことになんとも言えない日々を過ごした。
それを案じたお母さんが、仕事の手伝いをして欲しいと言ってくれた。
春馬くんにも相談せず、二つ返事でお願いした。事後報告にも関わらず、春馬くん私からの報告を嬉しそうに聞いて、お母さんとなら、安心だねと呟いた。
とても優しい人だった。
ふわふわとしているところもあったし、厳しいところもあった。でもずっと優しく私のそばにいてくれたし、これからもそうだと思ってた。
「奈央ちゃん。」
お母さんの声でまた目を覚ました。夢の中でも、春馬くんは少しめんどくさくて、変わらず私のこと大好きって顔してた。
「奈央ちゃん、大丈夫?」
「うん、ありがと、大丈夫。」
大丈夫、大丈夫。
お母さんと、一階に降りると、眉毛を限界まで下げて、困ったような顔をしたお父さんがいた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。少しは眠れたか?」
「うん、ありがとう。」
お父さんは少しだけ眉毛を戻して、ダイニングの椅子に腰掛けた。
ふわふわと湯気をたてて、いい匂いの肉じゃがときのこのお味噌汁、ひじきの煮物、にんじんしりしり。
私の好きなものが並んでいた。
ここに来るのは久しぶりでもないのに、3人で食卓を囲むのはすごく久しぶりだった。
お父さんの仕事の話を聞いたり、お母さんのご近所付き合いの話を聞いていると、2人がだんだん遠ざかっていくような感覚がした。
普段、お母さんの仕事を手伝っている私の世界は、春馬くんと住んでる家とお母さんの仕事部屋がある実家。それだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます