第18話
朝起きて、お母さんの仕事部屋で一緒に仕事をした。役に立ってるのかわからないけど、言われた通りに必死に書類を整理して、PDFファイルに変換していく。
「今日は帰るね。」
お母さんはハッとしたような顔をしたけど、
「そうね。おかず持っていきなさい。」
「うん、ありがとう。」
いつかの時みたいに、タッパーに入れたおかずを袋に入れてもらって、いつもよりも早めに帰った。
駅まで歩く。いつも1人で歩く道だから、なんともなかったのに、最寄駅で降りて、少し歩くとあの公園の近くだと思い出して、急に泣きそうになった。
帰り道から逸れて、一緒にパンを食べたベンチまで、歩いた。
あの日と変わらず、そこにあるのに、季節が変わったら別の景色みたいで、ベンチの前で立ち止まっていた。
ふと、声をかけられていることに気づいたけど、右側からでは聞き取れず、わからなかったから、顔を上げた。
「あ、やっぱり!」
花屋さんの若い男の人が隣に立っていた。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
声が大きいからか、とても聞き取りやすい。
「座らないんですか?」
「あ、私は大丈夫です。どうぞ。」
「いや、俺もあなたがいるのが見えて来ただけなので。」
「え?」
「あ、すみません。俺、たぶん一目惚れして。」
「えっと。」
「もしかして、彼氏います?」
「いや、あの。」
「あ、結婚してるとか?」
だとしたら、だめか。そうだな。
それは犯罪か?不倫?だめだな。
それはダメだ。あー。
私が答える暇もなく、話し続けるその人は急にこちらを向き直して、
「俺、森 孝太郎といいます。」
今?と思ってぽかんとしていると、
「とりあえず、名前だけでも教えてもらえませんか?」
「すみません、畑本 奈央です。」
「奈央ちゃん、あの、結婚してますか?」
「いえ。」
「彼氏は?」
何も言えずに止まっていると、納得した人がするアクションとしてリアルで見るのは初めてだったけど、開いた手のひらを反対の手をグーにして叩いた。
「なるほど、喧嘩中?まぁあるよね!
俺が話聞くよ!もちろん、もちろん。
変なことはしない!
でも、あわよくばとか狙っていくよー。」
大きな声でたくさん喋って、またあの笑顔で笑っていた。
つられて私も少し笑った。
なんだか笑ったのが久しぶりで、頬が硬くなっていることに気がついた。
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