第3話

「奈央、帽子は?」

「あ、忘れた。取ってくる。」

春馬くんは洋服が好きだから、靴も好きみたいで、めんどくさそうな紐がたくさんのブーツとか履いてることが多い。玄関で忘れ物に気がついた時、取りに行くのは私の役目。それが私の忘れ物じゃなくても。

私がすぐに脱いだり、履いたりできる靴を履いていると言うことだけなんだけど、なんだか自分の役目があると言うのは幾つになっても少しだけ誇らしいものだ。小学生のとき、植物係になったときのあの気持ちを思い出す。私が休むと、この花はお水をもらえないんだ。そんな使命感のもと、水をあげすぎて根腐りしたシクラメン、ごめん。

上手く韻が踏めたと思ったけど、口には出さずに、少し前に買ったお気に入りのキャップを被って靴を履いた。

この靴も屈まなくてもすぐに履けるからお気に入りだ。


春馬くんがドアを左手で開けながら、右手を後ろに出した。手を繋ぐ時の合図らしきもの。何も言わずに左手で握る。きっと利き手が空いているほうがいいんだろうけど、春馬くんは利き手をいつも差し出してくれる。

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