「興味あるじゃろ?」 「いえ特には」
例えば自然発火能力。例えば触らずに物を動かす能力。例えば未来予知。世の中にはとても人類の知識では説明できない原理の能力が存在する。
それを能力として保持しているもの。シンプルにギフテッドと呼ぶ。まるで神から与えられたかのように。
「戦に負けたといったな。おなごで騎士は珍しい」
「私は農民の出です」
「は?」
戦場のせの字も知らないような生まれだ。少なくともここの牢獄にぶち込まれるような身分ではない。
「ある日、神の声を聞いたのです。王に会い、剣を取れと」
「……うん、待て。最近看守から聞いたぞ。戦場の最前線に立って突撃しまくるイカれた聖女が捕まったって」
瞬く間にフウラル王国が領地を奪いとっていき、勢力を拡大させていると。その中心人物が、フラウル国民から聖女として祀り上げられていると。
無論、正式に認定されたわけではない。聖女……聖人とは本人の死後に認定を受けることがほとんどだからだ。生涯をかけて奇跡と呼べる偉業を成し遂げ、人々に希望や愛をもたらす。それが聖人。
ただの農民が劣勢だった国の勢いを取り戻す。十分奇跡だろう。
帝国からすれば
「レミムーズの戦乙女、か」
レミムーズとは聖女が最初に戦った場所だ。そこで大勝利を収めた聖女はそう呼ばれるようになる。
「そう呼ばれるときもありました」
メリダ・エウラは頷く。
……道理で聞き覚えがある名前なわけだ。レミムーズの戦乙女なんて異名カッコイイとか、聖女とかわしの真逆じゃんとか思ってて名前をちゃんと覚えてなかった。
フウラル軍の士気を完全回復させ、帝国に仇なす女。
一度帝国が占領したフラウルの領地を、あろうことか全て取り返した化け物。それが、レミムーズの戦乙女メリダ。
「体を鍛えたのも戦う術も神から授かったものです」
「しかし負けたんじゃな」
「うっ……」
どうやら神の声とやらは完全にメリダの味方として機能してくれるわけではないらしい。その能力が本当に神の声を聞いているのか、それとも神の声と思える他の何かなのかは、わしにはわからない。
「あの日は雨音で声がよく聞こえなかったのです」
「随分通りの悪い声じゃな。負けてから声も聞こえんようだし」
ギフテッドは訓練すればコントロールできるものもあればできないものもある。身体機能の一部であるかのように自然に機能することもあれば、意図しなければ出ないものもあり、あり方は非常に様々だ。
そもそも、説明できない能力を統括するためにギフテッドという呼称を使ってるのだから様々あって当然じゃろうな。
「まぁ、元聖女よ。これから魔女仲間のギフテッド仲間になるわけじゃ。仲良くしようぞ」
メリダはスープを飲み干して、口元を拭う。少しテカった唇にエロティシズムを感じた。
「あなたも神の声が聞こえるのですか」
「まさか」
わしは笑った。
「背中見たじゃろ」
悪魔と契約しているのに神とやらが声をかけてくるわけがない。
「ギフテッドは人それぞれ。同じとは思わぬことじゃな」
「ではあなたのギフテッドは何なのですか」
メリダが飯を食べ終えたので皿を重ねてトレーにのせる。そして鉄柵の傍に置いた。
「不死じゃ」
「……は?」
わしのギフテッドを聞いて、心底信じられないといった様子でメリダが睨んでくる。
「暫定じゃがな」
「そんな神でもないのにそんな力」
「現状、人間の持ちうる手段で殺されたことはない。となれば今のところ不死と思うのが妥当じゃろ」
どこまで生きられるか。どこで死ねるかもわからない。なので暫定。フシカッコカリ。
「嘘ではないのですね」
わしは腕を組んで頷く。
「嘘だと思うのならわしの首を折れ」
「い、いえ戯れにそこまで本気になれません。死なれたら困ります」
手を振るメリダ。
いっそのこと目の前で自害してみせたらこやつはどんな反応をするのじゃろうか。
首ちょんぱが気持ちよくていいんじゃが、それができる環境ではないしの。
ま、そのうち見せる機会もあるじゃろう。
「証拠の代わりになるかはわからんが、わしのエピソードを教えてやろう。昔の話をな」
まず仲良くなるには互いを知ること。
そうしなければ何も始まらないからな。
「興味あるじゃろ?」
「……あの、えと」
メリダは目を上に泳がせながら気まずそうに手を太ももの間でこすりあわせる。やがてニコッと笑った。
「その、特には」
……うん?
わしは思わず首を傾げる。
今、話の流れを全てぶったぎる、とんでもない返しをもらった気がするんじゃが。
聞き間違いかの。
そうじゃ。聞き間違いじゃな、だってこの流れでわしの話聞かないとかないもん。
「知りたくない?」
「はい、特には」
…………。
……わりとこの娘、人の心ないのでは?
わしは天井を見上げた。
「今日は雨でも降っておるのかの」
メリダは窓を一瞥してから静かにこういった。
「快晴ですね」
こてん。
わしは冷たい床に転がった。人差し指で床をグリグリ触る。
――アホウ、アホウ
外からやたら不快な言葉に聞こえる鳥の鳴き声が響き渡った。
あぁ、なんと世知辛いんじゃろうか。トホホ。
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