第104話 冗談だよ

「それで?」


ソファーに座り、足を組む明日香がいつもより低い声を放つ。


「……はい……佐和山さんと2人で密室にいました」


俺はリビングの床に正座し、声を震わせる。

……空気が重い。

山登りでもしてるんじゃないかと言うくらい息が苦しく感じる。


放課後から家路に着くまで明日香はずっと無言だった。

これは完全にキレている。

そう悟った俺は家に着くと同時に正座をした、したのだが今となっては後悔している。

というのもよくよく考えたら悪いことは何もしてない。

クラスメイトの女の子に頼まれて空き教室に連れて行き、お話をしていただけ。

それなのに自分から謝る姿勢を見せたら、なにかやましいことをしたと言っているようなものだ。

完全に悪手だった。


「私ね、あの後、優の事探してたんだ」


「メイド服姿を見せてくれた後?」


明日香は頷く。


「でも全然見つかんなくてさ……そっかそっか、すずちゃんと一緒にねぇ」


言い方が怖いよぉ。

ていうか佐和山さん、鈴っていう名前なんだ。

だからスーって真栄田君が呼んでる訳ね。

なるほどなるほど?

……どっちにしろ二文字ならあだ名の意味無くないかと思ったが2人がそれで呼んで楽しんでるならそれでいっか。

バカップルぷりなら俺と明日香も人のこと言えないし。


「なんでニヤけてるの?」


一瞬緩んだ隙を明日香に見つかってしまった。

なんでニヤけたんだ俺!

ま、まずいぞ。


「何がまずいの? 言ってみて」


思考が読めるのか!?


「い、いや、その佐和山さん達もバカップルだなぁって……あ、急にここだけ言っても意味分からないよね、ごめん」


明日香がぽかんとしてる。

そうだよね。

反省してるかと思いきや、佐和山さんと真栄田君の事を考えていたなんて、呆れちゃってるよね。


「え? 佐和山さん誰と付き合ってるの」


………………あ。

これ内緒なんだった――。


「なるほどねぇ、真栄田君と鈴ちゃんが……じゃあ、鈴ちゃんに頼まれて仕方なくだったんだね」


俺は首を縦にブンブン振って同意する。


「偉い偉い、女の子には優しくしないとね」


さっきまでの威圧はどこへやら、明日香は優しい声で頭を撫でてくれる。


「でも女の子に頼まれたからって、ほいほい付いていくのはどうかと思うな」


「どうしろと」


「ふふっ、冗談だよ。私はそういう優も大好きだから」


……この小悪魔め。

そういうところが可愛いけど。


「でも、ごめんね。明日香」


「なにが……は、まさか本当にやましいことでも」


「いやいやいや、そういうのじゃなくてさ、明日香が俺の事を探してたのは本当でしょ。だから、申し訳ないなぁって」


俺がそう言うと明日香はゆっくり抱き締めてくる。

どうしたの急に。


「これ以上好きにさせてどうすんの」


…………ずるいなぁ。

こんなこと言われてドキッて来ない人いる?

いや、いないわけが無い。

明日香もこれ以上好きにさせてどうするつもりだよ……。


「私もごめんね」


「……なにが?」


「実はね。私、最初から怒ってなかったんだ」


「え?」


「怒ったふりでもすれば構ってくれるかなって、ちょっとした出来心で」


あんな圧だしてたのに?

でも、なんか安心した。

怒らせちゃった訳じゃなかったんだ。

そう思った瞬間、肩の力が抜ける


「何回も言うけど私は優の事信じてるから、最初から安心しててよ」


明日香はそう言って微笑む。

そうだ、明日香は最初からずっと俺の事を信じてくれてる。

……たまに小悪魔出してくるから忘れるけど。


「文化祭一緒に回ろうね」


「うん。俺も楽しみにしてるよ……メイド服姿も」


「今日見たでしょ(笑)」


リビングに2人の笑い声が響く。

文化祭まで後、2日。






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