第103話 助けてあげて
「とりあえず、まず変えれるのは外見かなって思ってさ、それでちょっと変えたら」
「真栄田君が告白してきたと」
「せやねんなぁ」
佐和山さんは片手でピストルを作るように親指を上げ人差し指を伸ばし、上下させる。
しかもドヤ顔。
なんかここだけ見るとめっちゃアメリカンだな。
洋画みたい。
……にしても真栄田君と話した内容と少し違うような気がするんだけど……。
「でも変わったのは見た目だけでさ、中身なんて空っぽ、根っこはあの時の陰キャのままなんだよ」
「…………は?」
「いや、は……って、結構ガチ悩みなんだけど」
やばい、黄昏ながらそんなこと言うから思わず出ちゃった。
「ごめんごめん。あまりにもすっとんきょうなこと言うからさ」
「…………は?」
そっちも言うじゃん……。
「陰キャならここまで異性と話せないって」
「それは……有村君だから?」
……ちょっとときめいちゃうだろ、そんなこと言われたら。
「本当の陰キャは授業の時以外喋らないの」
「ソースは?」
「中学の俺」
「それはさ、有村君が特殊すぎるよ」
傷つくて。
自分でも分かってるけど、そんなはっきり言われてると。
「そもそも陰キャでなにが悪いの?」
「そりゃさ、だって、絢ちゃんみたいに……」
「本当に西堀さんになりたかったの? 佐和山さんは西堀さんみたいな恋をしたかったんじゃなかった?」
「あ……」
必死だったんだろうね。
必死に頑張ったからこそどこかで目標がすり替わり、そしてその事に気づかなかった。
「だから佐和山さんは既に十分頑張ったと思うけどな」
自分を変えるっていうのはすごく大変ということは俺もよく分かっている。
どんなに考えて、どんなに頑張って、どんなに行動しても自信が湧かない。
だって自分の事を評価しているのは自分自身だから。
どうしても他の人より劣ると考えてしまう。
だからこそ、他人から頑張ったと言われることが嬉しい。
俺が明日香に助けられたように。
「ありがとう……でも、それじゃ真栄田君に……申し訳なくて」
「それはなんで?」
「こんな陰キャで実はゲラな私の事なんて真栄田君は知らないからさ、真栄田君は私の外見通りの中身だと思ってるだろうから」
「それは真栄田君に聞いたの?」
「え、いや、でも普通そうじゃない?」
俺は両手の平を上に向けやれやれと首を振る。
「なんかアメリカンだね」
それはさっきの佐和山さんもね。
「男はね、佐和山さんが考えている以上に単純だよ。基本的に付き合っている時は盲目的になってるから安心して、それにさ」
「真栄田君は外見で好きになったんじゃ無いと思うよ」
「それはなんで?」
「だって佐和山さんが外見変わったのに気づいて無かったってこの前言ってたし」
「え、あれ冗談じゃなくて本当なの、私かなり変わったよね?」
「変わったね」
「だよね?」
佐和山さんの気持ちも分かる。
流石に気づくと思うよね。
俺もそう思うもん。
「それだけ真栄田君は佐和山さんの中身を見ていたんじゃないかな……男って女の子が少し変わった程度じゃ分かんないし」
「後ろの文がいらないなぁ、それ無かったら真栄田君に抱きつきにいってたのに」
情熱的だねぇ。
「でもそっか……んふー、真栄田君、私の事そんなに好きなんだ」
女の子がこっそり喜ぶ顔って良いよね。
幸せな表情ごちそうさまです。
「スー?どこいったー?」
外から真栄田君の声が聞こえてきた。
どうやら近くまで来たらしい。
「なんか、真栄田君に会いたくなっちゃったから、そろそろ行こうかな。ありがとうね、有村君」
佐和山さんは立ち上がり、教室から出ようとすると何かを思い出したかのように「あ!」と呟く。
そして俺の方に方向を変え、近づくと耳元で囁く。
「ねぇ……有村君……お願い」
な、なにを……。
ちょっと吐息も当たってぞくぞくしちゃう。
「もし絢ちゃんが悩んでいたら、今日の私にしたみたいに助けてあげて……多分、私みたいに自信無くしてるだろうからさ……それだけ」
「じゃあね、ありがと」
そう言って、佐和山さんは教室から出ていった――。
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