第96話 乗り気

「「「「かわいいぃぃっ!」」」」


女子達の興奮した声がクラスに響く。

まぁ、そりゃ女子達がかわいいメイド服を着たり着せたりすれば、そんな声もあがる……と思っていたのだが女子達の作った円の中にいるのは……我々男子達だ。

女子達にウィッグやらメイクやらされて、完全におもちゃにされている。

何故こんなことになったかというと――。


「メイド喫茶かぁ~、まぁ、やったりますか」

「え、なに結構やる気な感じ?」

「そりゃねぇ、せっかくの文化祭だし、メイド喫茶って定番っちゃあ定番じゃん?」

「「「それな」」」


真栄田君がクラスのみんなに結果を報告し、出し物がメイド喫茶になったことを告げた後、女子達は割と悪くない反応をしていた。

というのも学校公認でメイクやヘアアレンジができるし、なによりかわいいメイド服を着てみたいという人が多かったからだ。

恥ずかしいけどみんなが着るなら、私も……ということなのだろう。

だから、女子達は乗り気ではあったのだが……。


「お前ら誰のメイド服見たい?」

「俺はやっぱり、高憧さんかな」

「おいおい、彼氏持ちだぞ」

「彼氏持ちだろうがなんだろうが美人がメイド服姿してたら見たいだろ」

「「「確かに」」」

「お前はどうなんだよ」

「俺は弦本さんかな、あの小柄な感じで一生懸命奉仕されたら……」

「おい、流石に弦本さんはやべぇって、もし恋に……ひっ!」

「どうした急に、そんな顔色変え、て」

「ちょっと来いや」

「恋!? じょ、冗談だって、そんな顔しないでさ……い、命だけは……アァァァァァァッッ!!!」


男子達は完全に浮かれモード。

こういう奴らがいるからメイド喫茶嫌だったんだよなぁ。

するとこの一連やり取りを女子達が聞いていたようで……。


「ていうかなんか男子達、勘違いしてない?」

「メイド喫茶=女子達だけがメイドじゃないんだけど」

「男子も全員メイドになって貰うからね」


――ということで今、女子達に囲まれ写真をパシャパシャ撮られている。


「かわいいじゃーん」

「うちの男子達レベル高くない?」

「こっち目線ください!」


なんか女子の気持ちが分かった気がする、ここまで露骨に見られるとちょっと嫌かも……ただ同時に有名コスプレイヤーの気持ちも少し分かった気がする。

新たな快感に目覚め……あ、過度なローアングルはやめてください、明日香さん。


「……女子達も早く着替えろよ。俺らばっか、その、恥ずかしいだろ」


1人の男子が女子に向かってそう言う。

……メイド姿の男が恥じらいながら言う姿を見るとなんとも言えない気持ちになる。


「何言ってんの、私達、今日は着替えないよ」


「「「は?」」」


「今日は男子達だけ、今さら、メイクとかすんの面倒だしね」


「「「ねー」」」


「おい、さすがにそれはふざけ……」


ここまで言ったところで女子側の空気が変わる。


「……ご主人様に向かって、その口の聞き方は何? あなたは今、私のメイド。返事は?」


「そ、それは」


「返・事・は?」


「ひゃ、ひゃい、申し訳ございません。ご主人様」


「い・い・子♡」


メイド喫茶というよりSMプレイ喫茶だ……ちょっとゾクゾクしたよね。

これきっかけでこのクラス男子の何人かの新たな扉が開いた気がする。

興奮しちゃうじゃないか……♡


「優ちゃん、かわいいよ……お人形さんみたいだねぇ、でへへへ」


なんかこっちもダメになっちゃってるなぁ……。


「お客様、当店おさわりは禁止とさせていただいておりますので……」


擦寄すりよってくる明日香を大人の対応で遠ざけながら、ため息を吐く。

準備が始まったばかりなのにこんなので大丈夫なのだろうか。

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