第95話 佐和山さん

「え、忘れてたらごめんだけど……俺、真栄田君に何かしたっけ?」


「ううん、正直まともに喋ったこともない」


ですよねー。


「じゃあ、なんで?」


「……す、ゴホン、佐和山、いるだろ」


「真栄田君と一緒に文化祭委員の?」


真栄田君はこくりと頷く。

でも、その佐和山さんと今のありがとうはなんの関係があるのだろう。


「実は俺と佐和山、付き合ってるんだ」


「へぇ…………へ? 真栄田君と佐和山さん付き合ってんの!?」


真栄田君はしーっと人差し指を立てる。

それを見て俺も思わず両手で自分の口を塞ぐ。


「まだ、誰にも言ってないんだ。出来れば秘密にしていて欲しい」


コクコクと頷きながらも、ここでまた1つ疑問が浮かぶ。


「じゃあ、なんで俺には言ってくれたの?」


「それは、有村君が居なきゃ付き合えてなかったからだよ――」



「――じゃあ、球技大会の練習の時に仲良くなったと」


「そうなんだよ、あの時、有村君が女子達と仲を深めようと声をかけてくれたからだよ」


再び歩を進めながら、話を続ける。

それやったの恋なんだけどな……。

俺はなにもしていないんだけど。

ちょっと罪悪感。


「で、でもそれだけで俺に感謝しなくても、実際頑張ったのは真栄田君なんでしょ」


「それがね、そうでもないんだよ」


「……といいますと」


「練習の時、有村君揉めたよね。西堀さんのグループと」


揉めたね。

ん?


「なんで知ってるの?」


あの場には俺と明日香と弦本さん、そして西堀さんとそのグループの……4人しか……あ!!!

その瞬間、あの時のことを思い出す。

西堀さんがグラウンドから出ていってしまった時のことを――。


体育館倉庫のところで西堀さんを囲むように4人が慰めていた場面。


「私、言い過ぎだったよね。高憧さんに酷いこと言っちゃった」

「ごめんね、あやちゃん。私達が何も言えないから全部言わせちゃって」


そうそう。

確かこんな感じで落ち込んでる西堀さんを慰めていた。


「本当にごめん。絢ちゃんは私達を守ってくれたんだから、悪くないよ」


この子だ。

この子が佐和山さんだ。

……でもあの時となんか違くない!?

明らかにイメチェンしてるんだけど。


「思い出したかい?」


「あの時佐和山さんいたんだね」


「そう、そして有村君と高憧さんを見て、恋をしたくなったんだってさ」


「え!?」


「君らの甘っったるいやり取りを嫌と言うほど見せられてたら、いつの間にか、そうなってたって」


なんか嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からない感情だ。


「そ、そりゃどーも? でも佐和山さん、ずっとあんな感じだったっけ?」


「本人曰く、女の子は恋をすると変わるって言ってた……やっぱ、有村君から見ても変わったように見える?」


ブンブンと首を縦に振る。


「……俺、全然分かんなかったんだよね。写真見せられてやっと、気づいたんだけどさ」


まじか……。

恋は盲目だね。


「でも、それは真栄田君が佐和山さんの中身を見てたってことじゃないかな」


「いいこと言うねぇ、だから有村君好きぃ」


抱きつこうとしてくる、真栄田君を手で抑える。

ダメだ。

喋ったばっかだから真栄田君のキャラがよく分かんない。

こんなやり取りをしている内に文化祭運営本部に着く。


「あ、もしかしてその時のお礼ってことでさっきお化け屋敷の方で手を上げてくれたの?」


ドアを開ける直前、急にそんな考えが思いついた。


「いや、彼女のメイド服姿なんて他の男共に見せたくないでしょ」


「あ、そう……」


急に冷たい声になるじゃん……やっぱ、真栄田君わからん。


「失礼します。1-Cの出し物計画書を提出しに来ました」


ドアをガラガラと開け、真栄田君が紙を委員長みたいな人に渡す。


「あー、はいはい。んー? あちゃー駄目だね」


「「え?」」


「球技大会で優勝した1-Dがお化け屋敷にしてるからね。残念だけど第二希望の方になるよ」


そのルール完全に忘れてた。

球技大会の順位によって文化祭の出し物の優先順位変わるんだった……。

ってことは――。


「ということで1-Cの出し物は……メイド喫茶になりました」


「「「「「よっっしゃぁぁぁ!!!」」」」」


元気なく告げる真栄田君とは裏腹に男子の雄叫びがクラスに響き渡るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る