第94話 出し物

「ジェットコースターが4人、コーヒーカップが3人、メイド喫茶が11人、カジノとジェラート屋さんが2人ずつでお化け屋敷が12人、後は演劇に丁半博打ちょうはんばくちが1人ずつ……っておい、誰だ、カジノはまだしも、ガチもんのギャンブル入れたやつは」


次の日、午後のロングホームルームが文化祭の出し物決めの時間となり、クラス委員として俺と明日香は渋々前の方に出てきたのだが……思いのほかやることがない、というのも、今、教壇の前に立っているのは真栄田まえだ君、そして、その後ろで黒板にせっせと書き込んでいるのが佐和山さわやまさん。

文化祭委員の2人がほとんど全部やってくれているからだ。

まぁ、クラス委員は色々な行事を手伝う役目だから、本来の役目はこれくらいが妥当なのかもしれない。


……ていうか佐和山さんってどっかで見たことあるような気がするんだよな。

二学期にもなってクラスメイトにこんなこと言うのも失礼だとは思うけど……。


「じゃあ、メイド喫茶とお化け屋敷で決選投票。多かった方が出し物な、んじゃまずメイド喫茶から、メイド喫茶が良い人は手を上げて」


真栄田君が挙手を募った瞬間、ほとんどの男子が手を上げる……ほとんどっていうか俺と恋以外全員……。

このクラスの男って欲望に忠実だよなぁ。


でも、俺もお化け屋敷かメイド喫茶って言われたら普段であればメイド喫茶選ぶ……だが、明日香のメイド服姿を他の男に、しかもクラスだけじゃなく、他クラスに他学年、他校の奴らに見せることになると思うと手を上げられない。

恐らく、恋が手を上げないのも同じ理由だろう。


「おい! 上げてねぇやつがいるぞ!」

「んだよ、あいつら、彼女持ちだからってよ」

「自分達が幸せなら俺達はどうでもいいってか? ああん?」


声は発していないのにそう目線で言われている気がする……。

後で袋叩きにされそう。


「1.2.3……えーと15人かな、じゃあ、お化け屋敷が良い人」


今度は女子全員が手を上げ、そこに俺と恋が加わる。


「20人……と俺もだから21人」


え、真栄田君もお化け屋敷なの?

俺と恋が手を上げてる時点でお化け屋敷確定なんだから、手を上げなくても良いのに……絶対、反感買うよ……。


「ってことで我が1-Cの出し物ははお化け屋敷に決定しました」


案の定、女子からは拍手、男子からはブーイングが起きるが、真栄田君は気にせず、淡々と文化祭の運営本部へ提出する紙に第一候補お化け屋敷と記入する。

メンタルつっよ。


「じゃあ、有村君、提出しに行こうか」


「え、俺?」


驚いてる俺を尻目に真栄田君は教室の端っこにいる先生に提出してきますと告げる。

佐和山さんじゃなくて、俺を連れていく理由はなんでだろう。

……でも教室にいると命の危機を感じるのでここはお言葉に甘えよう。

恋ならきっと切り抜けてくれる……ごめんよ、恋、君の事は忘れない――。


真栄田君と2人で廊下をスタスタと歩く。

非常に気まずい。


真栄田君とは喋ったことがほぼ無い、なんだったらさっき、提出しに行こうかって言われたのが初めての会話……あれ会話っていうのかな……。


よくよく考えてみれば、恋と福以外の男子とほとんど喋ったことがない。

せいぜい球技大会の時に声をかけた位だろうか。

社交性ないなぁ、俺……。


すると真栄田君が急に立ち止まり、ぶつかりそうになる。


「っと、どうしたの、真栄田君」


「……やっとだ」


「え?」


「やっと2人きりになれた……」


いやいやいやいやいや、ちょ、ちょっと待って、俺、そういうのは興味無いし、そもそも、真栄田君と喋ったばっかだし、いや、普段から喋っていたとしても、あれだしさ、あ、もしかして、佐和山さんじゃなくて俺だったのそういうこと、でも俺はその気持ちには応えられないかな(早口)。


「有村君、ありがとう」


……へ?

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