第91話 図書室(福Side)

※※


「古典の問題は作品に出てくる登場人物がどんな人か整理しておいて、どんなお話か先に訳しておくと楽だよ」


放課後の図書室、俺は何故か西堀さんと一緒に並んでテスト勉強をしている。

アリソンに勉強会をするのか聞いて、今回はしないってことになって、そして今、西堀さんに連れられて図書室にいる。

……なんでだろ?

あまりの急展開でさっきから丁寧に西堀さんが解説してくれてるのに全く頭に入って来ない。


夏休みが終わってから、西堀さんの距離感がやたら近い……と思う。

最初は席が隣だからだと思っていたのだが、それにしても近い気がしている。


だって夏休み前なんて、まともに喋ったのは片手で数えられるくらい、ほとんどが勉強会の時だったのに、今では授業中も休み時間も毎日のように喋っている。

何回考えてもこうなった理由がよく分からない。

だって西堀さんはアリソンのことが好きなはずなのに――。


花火大会の時、俺は西堀さんに本気で告白しようとしていた。

夏休みの初めに告白をすると決めてた事から心の準備は出来ていた……はずだったのだが、浴衣姿の西堀さんはすごく綺麗で今からこんな綺麗な人に告白するんだと思ったら緊張して、失言をしてしまった。

それでも、西堀さんは俺の失言を笑ってくれて、また一段と好きになった。


それからはずっと西堀さんを見ていた。

花火会場に着くまで釘付けだった。

でも、そのせいで西堀さんの視線の先の存在に気づいてしまった。

西堀さんはずっとアリソンの方を見ていて、まだアリソンのことを好きなんだと分かってしまった。


だから俺は告白するのを辞めた――。


「ねぇ、福田君、聞いてる?」


西堀さんに肩を叩かれて、我に返り、顔を横に向けようとすると西堀さんの指が頬に触れる。


「ふふっ、引っ掛かった」


ほら、めっちゃ距離感近い。

そしてすごくかわいい。


「集中切れてるし、今日はもうやめよっか」


俺はただ頷く。

それを見て、分かったと言うと西堀さんはぐいっと背伸びをする。

本当にアリソンのこと、まだ好きなの?

それとも、もう……気持ちは違うところにあるの?

……そろそろ俺、勘違いしちゃうよ。


「あ、そうだ。今日の復習ってことで、これ訳してみて」


西堀さんはスマホを取り出し、画面を見せてくる。


「なにこれ、百人一首?」


「そうだよ。私が今、気に入ってる歌。マイブームなの」


女子高生にしては渋い。

でも、学年1位の西堀さんなら納得のブームではある。


『今こむと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな』


今混むと言うばかり……長月って、9月だよな。

9月の有明の月、待っている、かな?

ダメだ、今日の西堀さんの話、全然頭に入ってない。


「さっぱり分からん」


「もう少し考えてよ(笑)」


「答えは?」


俺が問うと西堀さんは首を横に振る。


「ダメだよ。すぐに答えを知ろうとしちゃ。自分で考えなきゃ、覚えないでしょ」


めっ、と怒られる。


「また問題出すから、次は集中してね。それじゃ、また明日」


西堀さんは鞄を持って立ち上がると図書室から出ていった。


「ふぅ……」


ため息を吐いて、椅子にもたれ、辺りを見回す。

周りではまだ勉強してる生徒がちらほら、みんな集中してる。

俺達の存在はさぞ邪魔だっただろう。

……にしてもなぁ


夕陽が沈み始め、茜色の光が図書室から消えていく。


「俺はどうすれば良いんだろう……」

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