第90話 ポニテ

「「マジ?」」


「なんで気づかないの……」


「あはは……」


驚く俺達を見て、再度呆れる明日香と苦笑する弦本さん。

……そんなに?

いや、確かに、西堀さんが福の事を意識してるっていうのは気づいていたけどさ。

そんなアタックっていう程、いってなくない?

アタックっていうのは明日香が入学式の時に俺にしたような行動の事だよね。


「優、なんか失礼な事考えてない?」


「ソンナコトナイヨ……」


鋭い。

女の勘ってやつなんだろうか。

恐ろしや、恐ろしや……。


「でもよ、西堀が福にアタックしてたっていうならどんなことしてたんだ? 俺らだって、あの二人の事、結構見てたけど、別に変な行動してなかっただろ」


ですよね!


「舞ちゃんも大変だね……」


「あっくんが鈍いのは昔からですから……」


この子達、さっきから俺らにダメージ与えすぎじゃない?


「逆に、優や愛久澤君は絢ちゃんのどこが変わったと思う?」


「分かんないから聞いてるんだけど……」


「1つ分かりやすいところ変わってるでしょ!」


明日香さん、ちょっとキレてますやん……。

分かりやすいって言われてもなぁ。

シャンプーとかリップクリーム変えたとか言われても、気づける男ってほぼいないと思うんだけど。

てか、気づいたら気づいたでキモくないか?

そうなってくると……。


「髪型?」


「分かってるじゃん」


恐る恐る口にしたがどうやら合っていたみたいだ。

確かに西堀さんは夏休みを明けてからポニーテールをするようになっていた……でもさ、


「それって暑いからしてるだけじゃないの?」

「それって暑いからしてるだけじゃないの? でしょ」


……被せてこないでよ。


「まぁ、絢ちゃんになんで髪型変えたのって聞かれたら暑いからって言うだろうね。私も優とまだ付き合ってなかったら言うかも」


「私も絢香ちゃんと同じ立場ならそう言います」


……まじで?

明日香はともかく弦本さんもやるの?


「じゃあ、本当に暑いんじゃないのか?」


……恋、多分それ違う。


「舞ちゃんも大変だね……」


「あっくんが鈍いのは昔からですから……」


さっきも聞いたよ。

もうやめてあげて、恋がかわいそうになってくる。


「暑いからやってるなら、夏休み前からやってるでしょ。なんだったら今は少し涼しいし」


確かに。

夏休み前なんて、明日香があっづいって言ってた頃だ。

言われてみれば、その頃の西堀さんはポニーテールをしてない。

つまり、暑いからポニーテールにした訳じゃないと。


「じゃあ、なんで髪型変えたの?」


「夏祭りの時さ、福田君、西堀さんの浴衣姿見て、良い反応してたでしょ。その時、ポニーテールにしてたから」


「してたから?」


「福田君がポニーテール好きなんじゃないかなと思ってやってるんだと思う」


健気。

ちょっとキュンとしちゃった。


「普通に言えばよくね? ポニーテール好きなのかとか福のためにこの髪型にしてるとか」


恋……。

今度は俺も明日香達に加わり、やれやれとする。


「愛久澤君、女の子は気づいて欲しいけど、そこまで分かって欲しくないの」

「……あっくん、もう少し、考えようよ」

「道徳の教科書読み直した方が良いよ」


「そんなに言われることなのかよ……なんで道徳?」


道徳の教科書、最強だぞ?

女の子の事、大体書いてあるらしいし。


「俺的には言って貰った方が俺のためにその髪型にしてくれたんだとか思ってグッとくるんだけどな」


……それもある。

明日香にそれやられたら、悶える自信がある。


「あっくんが言ってくれたら、やってあげる……よ」


「……おう」


「「眼福だぁねぇ」」


この二人はずっとこのままでいて欲しい。


「だぁー、見せ物じゃねぇ。ていうか、じゃあ問題は福だろ」


「そうなんだよねぇ、どうしちゃったんだろ福田君」


そう。

おかしいのは福の方。

それだけ西堀さんが覚悟を持って攻めているのにも関わらず、福が良い反応を見せないのだから――。

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