第88話 平和だな
「なぁ、エビデン」
「んー?」
授業中、要点をまとめながら、教壇に立つ教師の話を聴いていると恋が横から話しかけてきた。
昼休みを終え、午後最初の授業。
俺も恋も眠気と戦いながらも辛うじて意識を保ち、ノートにシャーペンを走らせている。
教師側から見たら、視線は前か下、そして手は懸命に動いてることから真面目にこの授業を取り組んでいるように見えるだろうが、俺達はよくこうして授業中に話している。
まぁ、真面目に授業受けてるっちゃ受けてるんだけどね。
これくらいの会話ならバレたとしても教師側も多少は見逃してくれるだろう。
「なんか思ったよりもなーんも起きねぇな」
席替えをしてから約1ヶ月、最初こそ恋や弦本さんの初々しい場面や西堀さんが福に対して意識していることが分かる光景が見られたが、今やどちらもすっかり慣れてしまったらしく、特にこちらが驚いたり、面白がれたりするようなことは無くなっていた。
「平和だねぇ」
「平和だな」
眠気が襲ってきていることに加え、授業内容をまとめることに失い欠けてる意識を全集中させてるため、語彙力の無い会話しか出来ていない。
「恋達がもっといちゃついたりすればいいのに」
「そうだな、福がもっと攻めれば良いのにな」
チッ、上手く交わされたか。
……まぁ、でも、恋の言っていることも分からなくもない。
最近、福が大人しすぎるんだよなぁ。
花火大会のときは西堀さんといるとあんなに挙動不審になっていたのに、今では全く動じておらず、常に自然体。
自分から西堀さんを遊びに誘ったり、再び告白に持ち込むような感じも見せない。
福は未だに西堀さんのことが好きなのかちょっと疑問になってきている……のだが……。
そんな福と相反するように西堀さんは福への感心が高まっているのではないかと俺は思っている。
これはあくまでも個人的な思い込みかもしれないが、ふとした時に西堀さんを見ると福の事を目で追ってることが多い気がしている。
西堀さんが福の事を好きになっているかは分からないが、これは告白する前の一学期よりは明らかに福の事を意識してるといえるだろう。
告白から始まる恋もあると前に明日香は言ってたけど、どうやらそれは本当にあるらしい。
西堀さんが福に感心を抱いてる、今こそ、勝負時のような気がするのだが、福は一向に攻めない。
でも、今の状態の福だからこそ西堀さんが気になっているのかもしれない。
だって、福、なにもしなければただのイケメンだし……。
意識してない時の福は普通にモテるのだから。
「まぁ、今は中間テスト前だから、もう少し様子見ようよ」
「そうだな、西堀の家の事もあるしな」
そう、だからこそ部外者の俺達が今は余計な口出しをしてはいけない。
今は暖かい目で見守ってあげよう。
「テストが終われば……ね」
「……な」
テスト後にはイベントがあるのだから――。
「そろそろ時間ね。じゃあここまで、今日やったところはテストに……」
教師が授業の終了を告げ、一礼をすると、クラスメイトは次々と机に突っ伏す。
涼しくなってきてすごしやすい気候、昼食後の授業、テスト前の寝不足でどうやらみんな気持ちは同じだったらしい。
「あー、疲れたよ、優ぅ」
「お疲れ様」
しゃがんで机に両手を乗せた明日香が頭を差し出してくる。
あざとすぎる。
どうやらなでなでをご所望らしい。
「……よく学校でそんなことできるな」
「目の前にあったら、そりゃ撫でるよ。恋も弦本さんにやるでしょ?」
「んなことできるかよ……」
呆れる恋。
残念だったね、弦本さん。
俺の位置からは弦本さんが一瞬ピクッと反応した後、恋の返答で肩を落とす姿がちゃんと見えた。
「んふー。満・足」
「それはよかった」
これでもかというくらい撫でたからね。
「相変わらずだね、このお二人さんは」
「ほんとにね」
前の方から福と西堀さんがやって来る。
二人セットで来るなんて珍しいな。
まさか……
「どうしたの? 二人で来るなんて」
「いや、今回は勉強会やるのかなって」
あー、そういうこと。
二人の中が進展したのかと思ったのに。
まぁ、確かに、これまで毎回集まってたしね。
「そうだね。じゃあこんか……」
……待てよ。
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