第87話 席替え

「……なにこれ」


始業式は何事もなく、すんなり終わり、俺達はホームルームの時間を迎え、席替えのくじ引きをした訳なのだが……。


「俺らの引きエグくね?」


隣にいる恋の発言に無言で頷く。

いや、ほんと、まさに恋の言う通り。

窓際の一番後ろ、いわゆる主人公席に俺、隣に恋、一列前には明日香と弦本さん、さらにその一列前には西堀さんと福。

八百長を疑うレベル。

この中で誰か先生に賄賂渡した?


『貰ってない』


だから先生、しれっと黒板に返答書かないでください。

先生に対して心の声だだ漏れすぎる。


「でも、こういうのってラブコメの漫画だとキレイに男女が隣になるよな」


まぁ、確かに……。

上手く男女、隣同士になったのは西堀さんと福のとこだけ、ていうかさ、


「恋って案外、乙女チックだよね」


「意味はよく分からんがからかわれてることは伝わってくるぜ?」


乙女チックって死語なんだ。

かという俺も漫画で出てきて知っただけだから使ったの今回が初めてなんだけど、ちょっとショック……。


「だって、弦本さんの誕プレを部屋に飾ってるしさ、手を繋ぐってことに緊張して遅刻しそうになるしさ、今だってラブコメの漫画読んでること、んぐっ!」


恋に口を塞がれる。


「それくらいにしておこうかお兄様」


「んぐんごごごご(そういうとこだぞ弟よ)ぷはっ!」


あー息苦しかった。

照れながらキレるんだから……そんなに弦本さんに聞こえるのが嫌かね?

全くこの弟は、かわいいやつめ。


「でもこの席、普通に良いよね」


「まぁ一番後ろの窓際だしな、授業中寝てたり、内職しててもバレづらいだろうし」


「それもそうだけどさ、前見てみなよ」


「いつめんがどうした?」


「鈍いなぁ、そんなんだから告白まで時間が……ナンデモナイデス」


恋が拳を構えていたのでからかうのはここまでにしておこう。

からかっておいてなんだけど、鈍いことに関しては俺も人のこと言えないし……。


「気を取り直して……俺が言いたいのは明日香と弦本さんの絡みも見れるし、そのもう一列前では福と西堀さんのちぐはぐな恋模様が見れるんだよ。特等席だと思わない? ってこと」


「まぁ、そういうことだと思ったけどよ……でも、福と西堀はその段階じゃないだろ、告白もしてないのに」


そう言う恋に対して、俺は手を招く。


「実は……西堀さん、福の気持ち知ってる」


「マジ? なんで?」


俺は恋に花火大会の時に起こったことを説明した。

福が西堀さんのいる前で俺の電話に出たこと、告白出来なかったと西堀さんの目の前で言ったこと、そして西堀さんの顔が赤くなっていたこと。


「それは……面白いな」


ニタリと口角を上げる、恋


「わっるい顔だねぇ」


全く誰に似たんだか。


「そういうお代官様もですぜ」


恋に言われて自分も口角が上がってることに気づく。

俺に似たのか……。


「どしたの二人ともわっるい顔して、もうホームルーム終わったよ」


いつの間にか明日香が帰る準備を終えて、こちらの方を向いていた。


「まぁ、明日以降楽しみだな」


「……そうだね。色々とね」


福や西堀さんのことは勿論、恋と弦本さんの初々しいところも楽しみだよ……ふふふ。






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