第86話 二学期


「あっついねぇ」


「あついねぇ……なんかこの前もこんな話しなかった」


「あの時はあっづいだよ」


……多少マシになったという明日香なりの表現なんだろう。

花火大会が終わり、あっという間に二学期初日を迎えた俺達は、残暑の厳しさに見舞われながら久々の学校に登校していた。


足が重く感じる。

夏休み明けの学校って、初日が本当にきついよなぁ。

休みの期間が楽しかったからこそ、現実が異様に辛く感じる。

夏休み前は毎日のように通ってたのにね。

毎年毎年、この時期が辛くて仕方が無いが今年は登校さえしてしまえば恋や福達がいる。

小中学校の時よりも気が楽かも……気兼ね無く話せる友達って大事なんだなと改めて思う。


「ふん、ふん、ふ、ふふん、ふーん♪」


隣で軽快に鼻歌を歌う明日香。

さっきまであっついとか言ってたのに……。

俺とは真逆で足取りも軽そうだ。


「明日香、ずいぶん楽しそうだね。夏休み明けなのに辛くないの?」


「そりゃ楽しいよ。こうして久々に優と登校出来てるんだもん」


ノータイムでこの返事が来ると不意を突かれた驚きやら、嬉しさやら、色んな感情が一気に来て言葉が出なくなる。

本当、この子はどれだけ俺の事を好きでいてくれてるのだろう。


「んふふー、照れた?」


「聞かなきゃね」


相変わらず、人の反応見て楽しむ小悪魔だ。

こういうところも好きなんだけどね。


「補習の時なんて地獄だったよ。1人だし、あっづいしさ」


やっぱあっづいはあっついの上位互換なのか……メ○、メ○ミ、メ○ゾーマみたいな感じで暑い、あっつい、あっづいみたいな感じなんだろう。


「俺も明日香と一緒に登校出来て楽しいよ……照れた?」


「聞くのが早いよ!? 照れさせるならもう少し余韻を頂戴!?」


こうして明日香とからかいあってるのは心地良い。

……なんか夏休み明けの憂鬱なんてどっか行っちゃったな――。


「はよー、アリソン」


教室に入り、席に着くと福がニタニタしながら近づいてきた。

……なんか不気味だな。


「はよー、なんかあったの?」


「ああ、まぁ、なんていうか、この時間に恋来てないの珍しくない?」


確かに……ていうか俺が席に着くといつもなら恋が声をかけて来るのに今日は姿すら無い。


「恋休み? 風邪でもひいたの?」


「いんや、来るとは思うよ、もしかしたら遅刻するかも知れないけど」


だからなんで君はニヤニヤしてるんだい?

理由を教えてくれよ。

……あれ、そういえば弦本さんもいないぞ。


「お、噂をすればきたきた」


教室の入り口を見ると確かに恋が入ってくるところだった。

そしてあとに続くように弦本さんも。

別にいつもと変わらな……。

二人とも顔真っ赤なんだけど。


「おはよ、恋。大丈夫? 顔真っ赤だけど」


「はよ、何でもないから、ちょっとだけ放っておいてくれ」


そう言うと机に恋は突っ伏す。

弦本さんは明日香と西堀さんに質問攻めされて、さらに顔が真っ赤になっている。


「福、何があったのこれ」


「別に一緒に登校してきただけ」


へ?


「恋人になって初めての登校、二人とも意識しちゃって、手を握るのも緊張、いつもより歩くペースも遅くて、遅刻ギリギリってわけ」


「うるさい」


突っ伏しながらも反応してくる。

かわいい弟だ。


初々ういういしかったなぁ。手を握りたいのに手がぶつかるだけで二人とも引っ込めてさ、途中から耐えられなくなって俺はさっさと学校行った」


多分俺もそんなの見たら耐えられなくなる。

一般人が耐えられなくなるレベル……その場に毒島先輩と朱美さんいたらきゅん死してそう。


キーンコーンカーンコーン


「席につけー」


チャイムが鳴ると同時に担任が入ってくる。


「やべ、先生来ちまった、んじゃまた後でな二人とも」


福が慌てて席に戻るのを見届け、俺は視線を前に向ける。


「夏休み楽しんだか? 学校来たく無かったよな、先生も来たくなかった」


笑い声が教室を包む。

でも先生がそれ言っていいんですか……。


「先生だって人間だからな来なくていいなら来たくない」


だからこの人なんで人の考えてること読めるの?

こっち見て言わないで、なおさら怖さ倍増するから。


「まぁ、今日は始業式してホームルームして終わりだから、良かったな」


みんな自然と笑みが溢れる。

そうだよね、夏休み明けなんてみんなそういう気持ちだよなぁ。

一週間くらい始業式とホームルームだけだと嬉しいのに。


「あ、そうだ。学期変わるから席替えするぞ、ホームルームの時間にやるからな」

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