第83話 お前の事が

毒島先輩同様、変わった彼女さんのようだが、その彼女さんのおかげで被害者が少なくなったのなら良いことなんだろうな。

……ん?


「その彼女さんは今日来てないんですか?」


せっかくの花火大会なのに彼女と一緒じゃないっていうのは不自然だ。

特に花火大会なんてきゅんきゅん度MAXレベルのイベントなのに。


「あー! つるちゃんに会って完全に忘れてた! トイレに置いてきちゃった……」


そんな彼女をスマホとか財布みたいな感覚で忘れなくても……。

しかし、焦ったのは一瞬で毒島先輩はすぐにけろりとした表情になる。


「……ん、まぁいっか。そろそろ来るだろうし」


いやいや、絶対に迎えに行ってあげたほう、が……え?

今なんて?


「ドクくーん」


公園の外から女の人の声が聞こえる。

ドク君て……毒島だからドクなんだろうけど……でもブス君よりは確かにいいかもしれない。


「お、来た来た。ここだよー」


毒島先輩がそう言うと、女の人が二人こちらへ寄ってくる。

ふ、ふたり?

しかも、なんか片方見覚えあるぞ?


「もーう! なんでなんも言わずに置いていくかなぁ」


「ごめんごめん。みんな、俺の彼女の朱美あけみ、可愛いだろう」


「えへへー」


ちょろかわいい。

さっきまで怒り気味だったのにすぐにデレデレしてる。

……なんか俺と明日香に似た波長を感じる。

周りから見たらこんな感じなのかな……以後気を付けよう。


「そして、朱美の隣にいるの、が……あれ? どこ行った?」


さっきまで朱美さんの隣にいた人物が居なくなってる。

…………もうどこにいるか分かるんだよなぁ。


「久しぶりの明日香ぁ……、すぅーはぁー、たまらん! しかも、浴衣! お姉ちゃん生まれてきて良かった!」


感涙する未来さんと対比するようにすっごく嫌がる明日香。

最近、明日香吸いしてなかったもんなぁ……。


「そろそろ離れてあげなよミック、妹ちゃん嫌がってるでしょ。相変わらず妹愛が重いんだから」


「は?朱美も重いからね。普通年下彼氏にGPSまで付けないって」


GPS使ってるからこの場所分かったのかぁ。

一般人として意見言わせて貰うとお二人とも十分なくらい重いですよ……。

福も弦本さんも引いてるからね。

……なんで明日香は首かしげてるのかな?

こっちに来なさい、そっち側の人間になってはいけない。


「未来さんって朱美さんとご友人なんですか?」


「そうだよ、朱美とは大学でね……って聞いてよ優君、朱美ったらオープンキャンパスで来た毒島君を籠絡ろうらくして……」


「人聞きの悪いことを言うなぁ、ちょっとお話しただけだよ」


表情は笑顔なのに目の奥が笑ってないぞ……。

朱美さんが一番やばい人なのかもしれない。


「そういえば、ドク君、なんで私を置いていったのかな? 私より大事な事でもあった?」


怖いって……。

今のとこ朱美さん、喜怒哀楽の喜怒しか見せてないからね?


「朱美が一番大切に決まってるだろ」


毒島先輩が朱美さんを抱き寄せる。

その見た目でその台詞はもうDVかれ……いや、一周回ってむしろめちゃくちゃ大事にしてる人にも見える。


「えへへぃ……じゃ、じゃあなんで?」


ちょろすぎんか、この人。


「前に言った例の後輩達がいてさ」


「つるちゃんと恋ちゃん!? え、どこどこ?」


毒島先輩を突き放して朱美さんは辺りを見回す。

え、さっきまでの重い愛は?


「あ、あなたがつるちゃんかぁ。応援してるからね私!」


朱美さんは弦本さんの手を握ってブンブン上下させる。


「は、はい。あり、がとうございます」


するとここで花火会場の方から一際ひときわ大きな音楽が流れ出す。

これ、花火大会のラストを飾るやつだ!

恋はまだ来ないのか?


「あれぇ、そういえば外から男の子が覗いてたけどあれが恋ちゃん?」


公園にいる全員が入り口のところを見る。

すると公園の外から半身出してこちらの様子を伺っている人物が確認できた。

恋……そんなに毒島先輩がトラウマなのね。


「ねぇ、優君。もしかしてあの二人これから告白でもしようとしてんの?」


察しが良い。


「そうですよ。ショッピングモールで言ってた弦本さんの好きな人があの子で俺の異母兄弟です」


未来さんはふーんと答えるとそのまま恋のとこへ向かっていった。

そして何かを恋に伝えると戻ってきて、


「舞ちゃん以外はみんな一旦出ようか」


と言い、告白見ーたーいと駄々をこねる毒島先輩達を引きずって公園の外へ出ていった。

かっけぇ……。

さすが姉さんっす。

とりあえず俺達も公園の外に出ると、入れ替わるように恋が駆け足で弦本さんのところへ向かう。

え、え、恋?

さっきまであんなに迷ってたのに、一体どうしたの?


「舞、俺は……」


「え、あっくん、ちょっと、まっ……」


「俺は、お前の事が好きだ!!!」


……言い切った。

恋が告白したと同時に図ったかのように花火も激しくなる。


「小さい時からずっと、お前の事が大好きだった……もちろん今だってお前の事が大好き、いや、今はもっと大好きだ! 世界で一番お前のことが大好きだ!!!」


「あっくん……」


「……だから」


おめでとう恋。

これでようやく弦本さんと恋人になれ……


「毒島先輩の弟よりも俺を選んでくれ!!!」


「「「「「「「……は???」」」」」」」

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