第82話 きゅん
「え! じゃあ何。小さい時に病院で助けてくれた子と高校で再会して告白したってこと?」
「そうなんですよ~、私なんて優見た瞬間に抑えきれなくて教室で告白しちゃって」
「えーっ! もう漫画だねそれ……いいねいいね、もっとそういう話頂戴、高憧ちゃん。俺をきゅん死させてくれ」
なにこれぇ。
大柄な男性とうちの彼女が熱く恋バナしてるんですけど……。
端から見ると結構カオス。
明日香ぁ……花火は……。
聞いてたよりもここ綺麗に見えるのに……。
「これが恋愛オタクだよ、アリソン」
諦めろと言わんばかりに福が肩に手を掛ける。
「毒島先輩はさ、悪い人では無いんだ。ただ、恋バナとかきゅんきゅんするものが好きすぎるってだけで」
「そうなんですよねぇ……悪い人ではないんですけど……」
弦本さんも悪い人ではないっていう認識なら……一体何故。
「悪い人じゃないのに弦本さんと恋を困らせたの?」
「まぁね」
「そうですね」
二人の目から光が消えてる……。
「中学の時はもっと凄かったからね」
……え?
今よりも?
確かめるように毒島先輩の方を見ると明日香が体育祭の時の話をしているようで、毒島先輩も「え、あの優君が?」とか言いながら顔を赤らめこちらをチラチラ見ていた。
……うん、なんか恋の気持ち分かった気がする。
これはトラウマになる(確信)。
ていうか、明日香も1から全部言わなくても……。
「優のこういうところが好き」とかちょいちょい耳に入ってきて恥ずかしくなってくる。
こっち見てニヤニヤすんな、毒島!
「ね、アリソンでもこんな感じになるんだよ。照れ屋の恋が毎日のようにそれを食らったら……どうなるか大体お察しできるでしょ?」
毎日のようにこれはダメだ。
ある意味、一種のイジメと言っても過言ではない。
「しかも、あの時の毒島先輩。頭の中でこうなったら良いのにっていう妄想みたいなのを口に出してたからさ、それを本当にあったことだと勘違いした生徒が広める訳よ」
あー、だんだん分かってきたぞ……。
今の情報と弦本さんがショッピングモールで言ってた事が繋がりだした。
弦本さんが先輩に付きまとわれていたっていうのは恋との関係について毒島先輩に根掘り葉掘り聞かれていたってことで、あること無いことっていうのは毒島先輩の妄想のことか。
「結果として、恋は周りからの目が気になりすぎて試合に集中出来ず、決定機という決定機外しまくり、チームは連敗。恋はチームに迷惑掛けるからって辞めちゃったってのが事の真相だよ」
なーるほどねぇ……。
「本当、つるちゃんと恋ちゃんには悪いことをしたよ」
恋バナが終わったのか、毒島先輩が明日香と共にこちらへ歩いてきた。
「あの時は自分のきゅんへの欲求が強すぎて全然周りが見えて無かったよね」
きゅんへの欲求って初めて聞く言葉なんだけど……。
「何で今はきゅん欲抑えれてるの?」
明日香も知らない言葉を作るのやめようね?
それと年上の人に対して馴れ馴れしすぎるよ、明日香……。
仁さんが言ってた距離感分からない問題出ちゃってる。
「今はねぇ、自家生産してるから」
……きゅんの自家生産?
「彼女が出来たってことだよ」
ため息を吐きながら福が通訳してくれた。
「えーと、つまり、自分の彼女に対してきゅんきゅんしてるから欲求を抑えれてると?」
「ザッツライト!」
毒島先輩が指をパチンと鳴らす。
……これで抑えれてるの!?
欲求だだ漏れじゃない?
「彼女がいても、他人の恋バナが気になるんですか?」
「そりゃそうだよ。彼女が出来たからって好きなものが変わるとは限らないだろう? きゅんなんてなんぼあってもええですからね」
やっぱこの人、怖い。
底の見えない恐怖がある。
「ちなみに彼女さんはそれについてなんて言ってるんです?」
恐る恐る福が質問する。
そうだよね。
彼女さんは他人の恋バナできゅんきゅんしてる彼氏ってどう思ってるんだろう。
「え? 私も恋バナ好きーって」
あ、やばい、彼女さんも変わってる人かもしれない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます