第81話 毒島先輩

俺達が狙われる?

なんで?

毒島先輩って彼氏彼女の関係にある人達を許せない系の人なのかな。

理不尽すぎない、それ。


「ねぇ、福……」


「しっ! ほら、あれが毒島先輩だよ」


福に理由を聞こうとしたが遮られてしまった。

どれが毒島先輩だって?

暗い公園の中を見るとぼんやりと影らしきものが2つ存在しているのが分かる。

手前は小さく、奥はかなり大きい。

小さいのは弦本さんなのは間違いない。

ということは……あの大きいのが毒島先輩ってことだよね。

っていうか、やっぱこの公園だったんだ。

居なかったらどうしようかと思った。


「つ……れ……つ……た……」


「ま……じ……この……こ……」


2人で話してるみたいだけど遠すぎてよく聞こえない。


「福、止めなくていいの?」


「何かあったら行くべきだけどさ……今日は恋が行くべきかなって」


まぁ、それもそうだよね。

恋が着くまで見張りをしてるのがベストかもしれない。

なんか思ったよりも危ない雰囲気では無さそうだし……と思った矢先。


「そ……! やっ……ふた……き……う……!」


「で……やっ……やめ……」


毒島先輩らしき人のテンションが高くなり、弦本さんは嫌がってるような声を出している。

え、やばくね?

辺りを見回しても恋はまだ来ない。


「……で!? ま……す……おに……よ! じし……て」


大きな影が小さな影に一気に近づき肩を掴む。

これはアウト……だよね!

恋が来ないなら行くしかない!

そう判断し、俺は駆け出した。


後ろで福がなんか言ってるけど、これは一刻を争う場面だ。

弦本さんをまずは避難させないと!


「弦本さんにげ……」


「そうです……かね。分かりました。ここまで来たら、私、やります告白!」


「そうこなきゃ! 頑張ってな!」


なんか思てたんと違う!?

ブレーキをかけるが間に合わず二人の間まで来てしまった。

人は急に止まれない。


「有村さん? どうしたんですか」


「ああ、色々あってね……」


苦笑いをしながら答える。

弦本さん、全然ピンチって感じゃないね!

恐る恐る後ろを振り向き声を掛ける。


「あ、あのぅ、あなたが毒島さんですか?」


「いかにも。私が毒島さんだよ」


大柄な男性は、にこにこしながら答えた。

なんかキャラも思てたんと違う!?

これ、完全に俺が先走っちゃった感じ?

い、いや、確かに弦本さんは嫌がってたはずだし……。


「いきなりこんなこと聞いて失礼かもしれませんが今、弦本さんとどう言ったお話を……」


「んー、つるちゃん言っても良いかい?」


「……有村さんなら良いですよ」


ちゃんと許可取ってる。

すごく紳士的な対応。

てか、つるちゃんて……距離感が友達なのよ。

本当にこの人から嫌がらせ受けたの?


「そうかそうか、つるちゃんが認めてるってことは君は良い人なんだね」


毒島さんは俺に向かって微笑む。

全然悪そうな印象無いんだけど――。


「久々に会って、お話してただけなんですか?」


「そうだよん」


さっきの話の内容としてはこんな感じだ。


「つるちゃん、れんちゃんと付き合えたの?」

「まだなんです。でも実はこの後、告白する予定で」

「そうなの! やっとだねぇ……二人ならきっと上手く行くよ!」

「でもやっぱ、やめようかと……」

毒島さんが弦本さんに近づいて肩を掴む。

「なんで!? 前から言ってるけど二人はすっごくお似合いだよ! 自信もって!」

「そうです……かね。分かりました。ここまできたら、私、やります告白!」

「そうこなきゃ! 頑張ってな!」


うん!

完全に俺が出ていく場面じゃない!

え、本当に中学の時、この人にトラウマ植え付けられるようなことされてたの?

ここまでの対応見たら、良い先輩って感じなんだけど。


「ゆーう、大丈夫そ?」


不意に後ろから来た、明日香に抱きつかれる。

oh……柔らかなものが当たってますわよ。

緊張状態から急に天国に連れていかれ顔が緩む。


「高憧さん、ダメだって! その人の前でそういうことしちゃ!」


後ろから福の声が聞こえる。

それって……どういう……。


「その子は君の彼女かな?」


「はい、そうですけど……」


なんか雰囲気が変わった。

すると俺も明日香も走ってきた、福に掴まれ、毒島さんから遠ざけられる。


「どうしたの福」


「あの人の前でいちゃつくな」


いつになく目がマジだ。


「なんか取り返しのつかないことしちゃった?」


福はゆっくり頷く。


「あの人はね。重度の……」


重度の?


「恋愛オタクなんだよ」


福が言いきったと同時に肩をトントンと叩かれる。

背筋に冷たい汗が一筋。


「お話……聞かせて貰っても良いかな」


警察に職質される時ってこんな心情なんだろうな……。

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