第77話 ダサいよな
「告白するってムズいんだなって思い知らされてる」
遠くを見つめる恋。
口調もやけに自信無さそうだ。
「体育祭で公開告白ってすげぇよ。俺なんて2人きりでも言えねぇのに」
「俺の場合は明日香が先に公開告白してくれたからね。それに……恋含め、みんながアシストしてくれたから」
明日香の気持ちが分かってて、みんなが応援してくれた。
後は自分次第だった。
だから俺でも告白することが出来た。
春頃の俺だったら告白することなんて無理だっただろう。
「それでも、ちゃんと出来たんだからすげぇよ」
恋が微笑んでこちらを向く。
「俺さ、成功するとは思ってるんだ。舞は断らねぇって」
俺もそう思う。
「でも、心のどこかでもしも失敗したらって考えちまう。さっきだって2人で花火を見てて、別にこのままでも良いんじゃねぇかって思っちまった」
分かるなぁ……。
すごく分かる。
多分、弦本さんも同じだと思う。
この関係が壊れたらどうしようって思っちゃうんだよね。
壊れるくらいならこのままでも良いんじゃないかって。
でも……。
「恋はさ。仮に振られたとして」
「縁起でもねぇこと言うなよ」
仮にだって……。
「弦本さんが恋の前から居なくなると思う?」
「居なくは……ならないだろ。親の都合で引っ越しとか無い限り」
「だとしたら振られたとしても何回でもチャレンジ出来るんじゃない?」
「まぁそうだけどよ……」
まだ決心つかなそうだ。
ここまで恋が自信を持てないというのは意外だった。
その気持ちも分かる。
分かるけど今日、告白すると決めたのは恋だ。
決めたのにここでやらなかったら、多分、告白するのは相当先になるか、なんだったら、やらないかもしれない。
そして、弦本さんもその決断に悩んでいる。
兄としてそして、親友として背中押してあげようかな。
そう決めると俺は深くため息を吐いて立ち上がる。
「恋、告白はやめよっか」
「なんで急に」
恋は驚いたように聞き返す。
「ゴール前でミスを恐れてシュートを打たないストライカーなんてダサすぎるでしょ。今の恋はそんな感じ」
「……」
「そんな状態で勝負に行ったって失敗するに決まってるじゃん」
「……」
まだ足らないかな?
「今頃、福は勝負に出てるだろうに。恋がそこまでビビりだとは思わなかったな、あーあ」
すると恋は立ち上がり肩を掴んできた。
あ、結構力強い……。
ちょっと煽り過ぎたかも。
「言いたいことはそれだけか?」
あ、これ完全に怒ってますね。
違うんだよ恋。
ちょっとは本音も混ざってるけど怒らせるつもりはないんだよ、本当に。
でも、まだ足らない。
「じゃあ、もう1つだけ」
大きく深呼吸して、声を発する。
「ストライカーなら一度や二度嫌われたって、諦め悪く、泥臭く、チャレンジし続けろよ!」
肩を掴む手の力が少し弱まる。
少しは響いただろうか。
ここが勝負処だ。
俺は恋の肩を優しく掴み、喋り続ける。
「ゴールは逃げないよ、恋」
失敗したって弦本さんは居なくなったりしない。
「でも、恋が逃げてたら始まらないよ」
その言葉を聞いた瞬間に恋の表情が変わり、肩から手が離れた。
やっと決心ついたかな。
「そうだよな、ダサいよな、今の俺……ごめんな、エビデン。手間掛けさせて」
「いいよ。かわいい弟のためだから」
恋が笑ってそっかと言う。
「舞が帰ってきたら俺、するよ」
完全に決めたようだ。
良い表情してるじゃん。
「がんばれ」
俺は拳を握り、恋の拳をこつんと当てる。
「おう!」
恋が返事をした瞬間に会場のスピーカーからアナウンスが入る。
「次はプログラム17番……」
17番って後3つくらいで終わりじゃん!
「ゴールは逃げないけど、タイムアップはあるかも……」
「それは勘弁してくれ……高憧はまだかな? 俺もちょっと見てこよ……」
ここまで言い掛けたところで明日香が走ってくるのが見えた。
良かった。
まだ間に合いそう……あれ?
弦本さんがいないけど……。
「高憧、舞はいたか?」
「舞ちゃんいないの! 私、全部のトイレ見てたんだけど舞ちゃんどのトイレからも出てこなかったの!」
「「え?」」
弦本さんが居なくなった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます