第75話 二人きり
「うまぁ~」
明日香が至福という表情でじゃがバターに夢中になっている。
恋達と別れてから俺と明日香は屋台の食べ歩きをしていた。
にしても相変わらず美味しそうに食べるなぁ……。
買ったばかりのチョコバナナを一口齧りながら横でそんなことを考えていると、
「優も食べる? はい、あーん」
明日香がじゃがバターを箸に載せて差し出してきた。
そんなに羨ましそうに見てたかな俺……。
「ではお言葉に甘えて……」
ぱくりと口に入れた瞬間、蒸かされたホクホクのじゃがいもとバターのまろやかな油分と塩味がマリアージュ。
ちょっと醤油を垂らしてあるのも高ポイントだ。
「美味しい」
「でしょー」
味自体は想像通りの普通のじゃがバターなのだが、なんだろう。
雰囲気というかシチュエーションというのだろうか。
そこら辺のおかげで美味しさが跳ね上がってる気がする。
「優のチョコバナナも一口ちょーだい」
……やだ、明日香ったら……はしたない。
公共の場でそんな意味深な事を……って考えてしまうのは男の
「いいよ。はい、あーん」
「あーん……んー美味しい!」
…………別になんとも思ってないよ?
彼女がバナナ食べて美味しいって言ってるだけ、断じて変な想像はしてない。
男の性、男の性……。
「みんなの分も買って、そろそろ戻ろうか」
「あ、う、うーん。もうちょっと屋台巡りしない?」
ん?
なんか変な言い方だな。
そういえば西堀さんも強引に福を連れていったような……。
これはもしかして。
「あのさ明日香。もしかして弦本さんも告白しようとしてる?」
「え、な、な、なんで分かったの優ってエスパー?」
やっぱそうなんだ。
これで俺もエスパーの仲間入り。
「ん? "も"っていうことはもしかして……」
「うん。恋も弦本さんに今日告白するって」
「なにそれ! 漫画みたいじゃん! 絶対成功するね!」
俺も100%成功すると思う。
「後、福も告白するって」
「え! 誰に?」
誰にって……ここで西堀さん以外だったら福はただのクソ野郎でしょ。
「西堀さん」
「へぇー福田君、西堀さんの事好きだったんだ。そんな素振り見せてなかったのに」
「あー、本人も最近好きかもって思い始めたみたいなんだ」
「ふーん」
ふーんって……。
なにその微妙な反応。
「福はダメそうなの?」
「うーん。私の予想だけど多分ダメだと思うな、絢ちゃん、好きな人いるし」
な……なんだってー!!
このままでは福だけが撃沈して、なんか気まずい感じになってしまう。
勝負する前に負けが決まってるなら、教えてあげないと。
「俺、福に告白は中止するように言ってくる」
そう明日香に告げて、走ろうとした瞬間、明日香に手を掴まれる。
「ダメだよ、優」
「な、なんで? 振られるって分かってるなら教えないと」
ちっちっちっと人差し指を左右に振る明日香。
「優は分かってないなぁ。私が告白したとき優は私の事どう思った?」
「え、かわいい子だなぁって」
みるみる顔が赤くなる明日香。
あ、俺なんかやっちゃいました?
思ったことを言っただけなのだが明日香にとっては不意打ちだったらしい。
「……そ、そうじゃなくて、私の事気になったでしょ」
まぁ、言われてみれば……。
でも告白されてそのまま家までついてこられたら気にならない方がおかしくない?
「告白されてから始まる恋だってある訳ですよ。だから今日、もしも福田君が振られたとしても絢ちゃんからしてみれば、福田君……私の事好きなんだ……トゥンク。みたいなこともありったりなかったり」
内容よりもトゥンクが気になる。
今時あんま聞かないけどね。
ていうか、最後すごい濁したな。
「じゃあ、今日の告白は西堀さんに意識して貰うために必要ってこと?」
「そういうことー」
なるほど……女の子も駆け引きっていうか色々考えてるんだな。
「そもそも福田君に教えるにしても直接言うんじゃなくて、メッセージで良かったんじゃない?」
……言われてみればそうだ。
文明の利器が手元にあるのを忘れてた。
「まぁ、優はそれくらい福田君の事を思ってたってことなんだろうね」
そう言われると少し照れる。
でも親友が告白しようとしてるのに失敗を願う訳がない。
「福だけ彼女がいないってのはなんか気まずいしさ、それに」
「それに?」
「福なら西堀さんの事、任せられると思って」
ちゃんとしてれば福はイケメンで優しいし。
ちゃんとしてればね。
西堀さんの事を振った手前、やはり西堀さんへの罪悪感はまだ残っている。
……あ、告白されたら気になるっていうのは本当にかもしれない。
「任せられるって、優は絢ちゃんのお父さんかな?」
明日香が笑ってそう言う。
任せられるって何様だよ、本当。
すると大きな音とカラフルな光が辺りを照らし出す。
花火が始まったようだ。
「花火始まったね。そろそろ舞ちゃん告白してるかな」
「ゆっくり歩きながら戻ろっか。ゆっくりね」
「ふふっ、そうだね。ゆっくりね」
せっかく二人きりなのだ。
なるべく邪魔はしないであげたい。
それにこっちも二人きりで花火を楽しみたいしね。
合流するのは最後の方でいいだろう――。
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