第73話 教育的指導
「恋は弦本さんの浴衣姿、褒めなくていいの?」
河川敷に向かう途中、福は時より西堀さんを気にしながら何かを考えており、女子達後ろでキャッキャしていたので俺は恋に疑問をぶつけていた。
先ほどの会話、恋だけが弦本さんの浴衣姿にノータッチ。
あの福ですら、西堀さんの浴衣姿を褒めていたのに……まぁ、掛かり気味で失敗しちゃってたけど。
でも、今日は告白する日。
それくらい気合いが入っててもおかしくないと思うんだけど……。
「今更感あるだろ、別に見るの初めてじゃねぇし」
昔からの幼馴染みの関係ってそういうもんかねぇ。
確かに弦本さんもあまり気にしてはなさそうな感じだったけどさ。
……でも、なんかもやもやする。
本人達が昔からそういうもんだからと思ってるならそれでいい気もするのだが、なんか引っ掛かる。
…………あ。
その瞬間、ショッピングモールでの事を思い出した。
「恋ってさ、弦本さんに対して思ってることを素直に言ったこと無いでしょ」
「……だから今日まで告白せずに来てるんだろ」
「ああ、いや、好きってことだけじゃなくて、些細な事でもさ」
「うーん、まぁ、確かにあんま言ってねぇかもしれねぇ」
やっぱり……。
「実はさ、弦本さんから前に誕生日プレゼントの事で相談受けたんだよね」
「舞から?」
俺はうんと頷く。
「あっくんがプレゼントを貰って喜んでるところを見たことがないんです、ってさ」
「微妙なクオリティの声真似は辞めてくれ、反応しづらい。てか、あっくん言うな」
結構上手く出来たと思ったのに……。
「ごほんごほん、まぁそれは一旦置いといて……自分のセンスが無いから恋が喜ぶプレゼントのアドバイスが欲しいって相談受けたんだよ」
「……まぁ、センスは無いわな」
辛辣ぅ……。
でも恋に対して、くまのぬいぐるみとかリボンだもんなぁ。
そう言いたくなるのも分からなくも……ていうか分かる。
でも……。
「嬉しかったんでしょ、プレゼント。部屋に大切に飾ってあるもんね」
ぬいぐるみにリボンまで着けて、ティーカップの中に入ってたのを覚えている。
「人の部屋、あんまじろじろ見るなよ……」
照れてる照れてる。
あんな見てくださいと言わんばかりに置いてあるのが悪いんだぞ、弟よ。
「兄弟で秘密の話し合いかね?」
すると背後から西堀さんがひょいと顔を出してくる。
「そうそう。弟に少し教育的指導……もといアドバイスを」
「弟くん、愛されてんねぇ」
「やめろやめろ。なんか俺がめっちゃ年下みたいな雰囲気出すな」
やめろと言いながらも照れを隠しきれない恋。
なんか新鮮だなぁ。
あんまり恋のこういう感じ見たこと無いし。
「あ、そういえば、女の子はちゃんと褒めなきゃダメだよ。せっかく弦本さんが浴衣着てきたんだから」
「ほらー」
やっぱり、西堀さんも気になったよね。
まるで先ほどの会話を聞いていたかのような指摘。
でもやっぱ弦本さんだけ浴衣姿についてノータッチはどうかと思うよね。
「……分かったよ、後で褒めとく」
観念したかのように恋が言う。
「私の浴衣姿みたいに月夜に提灯なら触れなくていいけど、せっかく可愛い子達が苦労して浴衣着てるんだからさ」
「え?西堀さんも浴衣似合ってるよ」
あ、いかん。
素で返してしまった。
福が言うべき台詞なのに……。
「……こらこら彼女持ちが何言ってんの。そう言う台詞は彼女だけに言いなさい」
西堀さんは一瞬、面食らったような表情になったが隠すようにそっぽを向いた。
「あ、兄が西堀、口説いてる。これは義姉さんに報告しないと……」
「ちょ、ちょっと待て、弟。いや、恋、それだけは勘弁して」
本当この弟はすぐ明日香にチクろうとするんだから……。
あと、俺らまだ結婚してないから、明日香を義姉って呼ぶのやめなさい――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます