第72話 バキュン!

「あのさぁ……」


甚平姿の福が不機嫌そうに口を尖らせている。


「どうした福ちゃん」

「どうしたの福」


「たった一週間でまーた、のけ者感すごいんだけど」


俺と恋で顔を見合わせる。


「「そんなことないだろ」」


「そういうとこだよ!」


夕暮れの空に福の声が響き渡る。

今日はいよいよ花火大会。

女性陣は浴衣に着替えてから合流ということで先に男達で集まったのだが……。


「この前はプロポーズもどきと早よ付き合えブレスレット、そして今回は兄弟でした~って? 人がいない時に大事件起きすぎだろ!」


「プロポーズもどき……」

「早よ付き合えブレスレット……」


なんかいつもより言葉の切れ味増してない?

まぁ今日は福にとっては勝負の日。

少しナーバスになってるのかもしれない。

恋も勝負の日なんだけど……こっちは成功するだろうしなぁ。

恋もいつも通りって感じだし。


「まぁ、今回は俺も勝負の日だからよ、当たって砕けろの精神で頑張ろうぜ」


砕けちゃ駄目だろ、弟よ……。

福もなんでうんうん頷いてるんだ。

当たっても砕けないつもりで頑張れ。


「そういえば、アリソンはどうすんの?」


「どうすんのって?」


「今度はもどきじゃなくて本気の……」


「いやいやいや、今日は普通に花火デートだよ」


「なーんだぁ」


これ以上、俺に何を求めるのさ。

その調子で行っちゃうと冬辺りには本当に結婚してしまう。


「エビデンは高憧とデート楽しみながら、俺らの成功を祈っててくれよ」


恋がサムズアップして、こちらにウインクしている。

……良い弟を持ったものだ。


「おーい」


背後から元気な明日香の声が聞こえてきた。


「おまたせー、待ったかな?」


「全然待ってな、い……」


振り返った瞬間、言葉を失った。

…………浴衣姿かわえぇぇぇ!!!!!


明日香と浴衣、一番合う。

どれくらい合うかと言われたら、明日香と浴衣くらい合う(語彙力)。

これ以上無いくらい完璧な組み合わせだ。


「どう……かな?」


「好き」


「……不意打ちはずるいと思うな」


しまった。

心の声が漏れていた。

明日香の照れ顔が見れたから結果オーライだけど。


「いきなり見せつけてくれるねぇ」

「本当、仲良いですね……羨ましいです」


西堀さんと弦本さんが明日香に続いて現れる。

二人とも浴衣姿似合っているなぁ。

……いかんいかん、なんか殺気らしきものを感じる。

他の女の子を凝視するのはやめよう。

えーっと、恋と福は……。

照れてるなぁ……。

福はともかく、恋は何回か弦本さんの浴衣姿見てそうだけど。

……この後、告白するって意識したのかな。


「舞も似合ってる」

「……//////」


こっちまで恥ずかしくなる。

でも一生眺めてたい、この光景。


「いやー愛久澤君もやるなぁ」

「西堀さんも月夜に提灯って感じで似合ってるよ」

「……ふふっ、あははは。そのことわざ無駄って意味だからね」

「えっ!? ごめん、そういう意味だと思わなくて」


福ぅぅぅ。

いきなり慣れないことわざなんて使うから……。


「褒め言葉として受け取っておくよ、ありがとう、福田君」


バキュン!

完全に福のハートが打たれた音がした。

危ない危ない、俺も撃ち抜かれそうになったわ。


「そろそろ時間だし、とりあえず河川敷まで向かうか」

「「「「「さんせーい」」」」」


こうして俺達の花火大会が始まったのだった――。

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