第71話 兄弟

「その……さ、優、ごめんね。勝手なことして」


「ううん。俺は父さんに言えなかったからさ……明日香が言ってくれてスッキリしたよ。ありがとう」


「そっか……えへへぃ」


かわいいやつめ。

それにしてもアホね……ふふっ……。

言われた時の父さんの顔見てみたかったな。

息子の彼女からいきなりアホって言われる父さん。

きっとびっくりしたんだろうな……ね、母さん。

お墓を見て俺は微笑む。

父さんにそんなこと言えるの母さんかばぁちゃんくらいだと思ってたけど……俺の彼女すごいでしょ。


「あ、来たかな」


不意に明日香が口を開く。

辺り見回しても誰も居ないけど……来るとしたら……。

雨音に紛れて、パシャッパシャッという音が聞こえ出す。

角から現れたのは恋。

やっぱ……そうだよね。


「恋……」


恋が近づいてくる。

俺は恋と親友のままでいたい。

恋もそうなのかもしれない。

でも……怖い……。

あんなことがあって本当に今までのままでいれるのだろうか。


「大丈夫だよ」


明日香がそっと背中に手を当てて応援してくれてる。

いつも俺は貰ってばかりだね。


「恋……あのさ」


すると恋が俺を通り過ぎ、母さんのお墓の前に立つ。

そして、急に土下座をし始めた。


え?

何してるの恋。


「うちの親父がすみませんでした!」


雨音よりも大きな声が辺りに響き渡る。


「ちょ、ちょっと恋、そんなことしないでよ」


俺が止めようとしても土下座を続ける恋。


「親父があなたや優君に酷いことをしたのは許されることでは無いです……男として最低です」


恋に優君って言われるの……慣れないな……。


「……でも親父が最低な事をした事で今、俺がここにいます」


「恋……」


恋も……辛いよね……。

でも俺、そんな事聞きたく無いよ……。

俺はただ、恋と今まで通りの関係でいたいだけ、それだけなのに。


「親父を許して欲しい……とは言いません。許せなくて当然です」


「ただ1つだけお願いがあります」


恋が大きく深呼吸をする。


「……優とこれからも仲良くさせて下さい」


「俺にとって、優は……大切な……親友です」


恋の発する声が徐々に弱々しい涙声になっていく。


「こんなことを言える、立場じゃないことは分かってます。でも……お願いします」


「もういいよ、恋」


それでも恋は頭を上げない。


「恋の想いはきっと母さんにも伝わってる……それにさ」


「俺も恋とこのまま……ううん、これまで以上に仲良くしたい。恋は俺にとっても大切な親友だもの」


「……だからさ恋。顔を上げて」


恋はゆっくりと顔を上げ始める。


「エ゛ヒ゛テ゛ェ゛ェ゛ン゛」


「あはは、すごい顔だよ、恋」


「エ゛ヒ゛テ゛ン゛た゛っ゛て゛」


「あ、れ? 本当だ」


二人の泣き笑い声と雨音が混じり合う。

それを見守る明日香は何か優しげな表情をしていた――。


『(恋)俺達、同時に風邪引くなんてやっぱ兄弟だなw』

『(優)あれだけ、雨に打たれたらね』


次の日、俺と恋はしっかり風邪を引いていた。

大雨の中、傘差さずに長い時間泣き笑いしてりゃあね。

ということで二人ともベッドの中でメッセージを送りあっていた。


『(恋)親父、結構落ち込んでたぜ』

『(恋)高憧のが効いたかもなw』


少しくらい落ち込んでくれなきゃね。

にしても返信に困るなぁ。

そんなことを思ってると恋から追加でメッセージが来た。


『(恋)そういえば俺とエビデンどっちが兄なんだ?』

『(恋)俺はこの前誕生日だったけど』

『(優)俺は4月7日』

『(優)だから俺が兄だぞ、弟よ』


ありゃ?

返信来なくなっちゃった。

兄マウントはよした方がよかったかな?

するとドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえてきた。


「ゆーう! なんで誕生日言ってくれなかったの!」


明日香がすごい勢いで部屋に入ってくる。

お、弟め!

こんな報復をしてくるのはずるいだろ!


「いやだってその日入学式だったし、聞かれなかったから……」


「だってじゃない! 私だって優の誕生日お祝いしたかったのに……」


「ら、来年祝ってくれれば十分だから」


「絶っ対だよ!」


「ち、近いって明日香、風邪うつっちゃうからー!」


その後、恋から義姉さんに報告しときましたとメッセージが届いた……。

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