第69話 ふざけるな!!!
待ち合わせ場所の公園まで後5分程で着く。
特に緊張等は無い。
父さんと会うだけだしね。
……ただ、家を出るとき明日香にすごく心配されたことを思い出す。
「本当に私も行かなくて大丈夫?」
「顔色良くないよ」
「何かあったらすぐに電話してね」
確かに寝不足ではあるが、自分自身ではそこまでって感じなんだよなぁ……そんなに分かりやすく顔に出てるのだろうか。
思い返してみると、これまでも結構言われてる事を再確認する。
……みんながエスパーなのではなく、もしかして俺が分かりやす過ぎるだけなのでは?
多分ポーカーとかやったら破産するな、俺。
そんなことを考えていると公園についた。
夏休み中、特にお盆休みということもあり、公園の中には親子や家族で遊ぶ人達の姿が多く見えた。
みんな笑顔でとても……幸せそうだ。
……。
別に羨ましい訳では無い。
無いのだが、もし母さんと父さんが離婚していなければ、あの時の俺にもこういう未来があったのかなと、そう思ってしまう。
ふぅと大きくため息を吐き、両手で頬をパシッと叩く。
やめだやめだ。
これ以上この事を考えているとネガティブになりすぎるし、そのうち恋に対しても嫌な感情を持つことになりかねない。
するとトントンと肩を叩かれる。
「優。待たせちゃったか……どうしたその頬」
肩トントンって最初に恋が話しかけて来たときと一緒……。
あーもう、いちいち変な事考えるな俺!
今日は父さんと話すだけなんだから!
「ううん。なんでも……な……」
気持ちを切り替えようとした途端、父さんの影から現れたのは恋。
「……恋も呼んだんだね」
「そりゃ俺の息子だからな。しかも、優と恋、親友なんだろ。今回の話の都合上良いと思って連れてきた」
「……よ、よぉ」
「うん……」
明らかに気まずい。
ん?……今回の話の都合上良い?
「父さん、今日何の話をするつもりで俺を呼んだの」
俺がそう言った瞬間、真剣な顔になる父さん。
……なんかすごく嫌な予感がする。
「……単刀直入に言う、優、お前、うちで一緒に暮らさないか」
「「……え?」」
恋とハモった。
ていうか恋も聞かされてなかったの?
「お前には長い間苦労掛けた。それにずっと心残りだったんだ……恵美と離婚してから」
「優に対して、父親として何もしてやれなかった」
「……」
「今の嫁さんと始めた事業も安定してきて経済的にも余裕があるし、嫁に話したら良いって言ってくれた」
「…………」
「今まで自分以外のために使っていた時間を自分のために使って欲しいんだ。例えば部活とか、優もサッカー好きなんだろ? 試合があったら父さんも応援しに行くぞ!」
「………………」
「後は恋が心配だったんだが、親友なら言うこと無いだろ。なぁ恋もそう思うよな?」
「……俺は……エビデンの好きな方で良いと思う……」
「……………………」
「そうか。優はどうだ? 悪い話じゃないと思うんだが……」
「…………………………んな」
「ん? すまん、優、もう一度言ってくれ」
「ふざけんな!!!」
俺が大声を出すのと同時に雷が落ち、猛烈な雨が降り出す。
唖然とする父さん。
恋も驚いている。
「長い間苦労掛けた? 心残りだった? 父親として何もしてやれなかった? じゃあ最初から離婚なんてすんなよ!」
「父さんのせいで俺と母さんがどれだけ苦しんだか! それを今更、一緒に住もう? 嫁には許可を取った? 部活を始めるといい? どんだけ自分勝手なんだよ!」
「……すまん」
「何よりも一番腹が立ってるのは、恋を連れてきたことだよ!」
「……っ!」
「父さんは俺の父さんでもあるけど恋の父さんでもあるんだよ! 特に今は愛久澤家で所帯を持ってるし、恋の父さんの方が正しいと思う。それなのにこんな大事なことを黙ってここで同意を求めるのはおかしいよ!」
父さんの胸ぐらを掴む。
「そもそも、俺はこんな話を恋の前でしたくなかったよ! 尊敬している自分の親を目の前で酷く言われて傷つかない子供がいるわけがないじゃんか!」
「結局、父さんは自分の事しか考えてないんだよ! 今回の話、誰が望んだの? 父さんだけでしょ? 俺は今の家を離れる気は無いよ。母さんと俺……と明日香の思い出が詰まった家だから」
「お願いだからこれ以上、俺の親友を父さんの都合の良い盾にしないでくれよ……俺は恋とこれからどんな顔して会えばいいんだよぉ……」
父さんの胸ぐらを掴みながら、俺はその場に膝を落とす。
今、頬を伝っているものが雨なのか涙なのかは分からない。
それは恋も同じようだった――。
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