第64話 ひ・み・つの答え

朝食を食べ終え、明日香と一緒に家を出る。

今日は日差しが強く、蒸し暑い……らしい。

まぁ、あっちでの話だけどね。

朝から恋から暑いだの溶けるだのメッセージが届いていた。

こちらは山の辺りだけあって気持ち涼しいが暑いことには変わらない。

明日香の服も今日はだっぽりしたパーカーだけ……パーカーだけ!?


「あ、明日香? 服どうしたの?」


「ん、かわいいでしょ」


かわいいけどさ……ちょっとなぁ……。

お尻の辺りまでパーカーで覆われているだけで後は露出してる。

彼氏としては複雑な心境だ。


「……じろじろ見ちゃって、やーらしぃ、優は本当にえっちなんだから」


いかんいかん無意識にガン見していた。

何故かは知らないけど、下手な水着とかよりもこういう格好の方が……エロいよね。

見えてないからこそ、想像力を掻き立てられるというか、なんというか。

……朝から一体、俺は何を考えているんだろう。


「暑いなー。 私、ちょっと涼みたいなー」


なんかちらちらこっち見ながら棒読み気味なのが気になるが明日香の体の事を考えると確かに暑いのは心配だ。

涼むとなるとやっぱ……。


「じゃあ、川でも行く?」


途端に明日香は目を輝かせ、うんと頷く。

……そんなに川に行きたかったのかな?


――数分歩いて、川に着く。


「川だぁー!」


川だね。

昨日も見たし、ばぁちゃんの家に来る度に来てるので感動は無いのだが……明日香は川デビューなのかもしれない。

テンションがかなり上がっているのがよく分かる。


「昨日もここら辺で釣ってたの?」


「いや、もうちょっと上流かな。ここは流れも緩やかだし、あんまり深くないから」


涼むだけなら危険性も少ないこの場所が最適だと思った。

ここならギリギリ電波届いてるから助けも呼べるしね。


「気遣いありがと。優のそういうところ大好き」


「大事な彼女のためですもの」


「言うねぇ」


このこのーと肘でうりうり押してくる。

かわいい。


「暑いならとりあえずそこに座って足を突っ込むといいよ」


「じゃあお言葉に甘えて……って、つめた! 思ったよりもひんやりしてるんだね」


岸に座りながら川に足を入れた明日香が少しびっくりしたようにこっちを見る。


「雪解け水だからね」


「夏なのに?」


「川の水って別に雨だけで出来てる訳じゃないからね。雪が溶けた水が地面を通って、長い時間をかけて、ろ過されて流れてるのもあるから……本当だ、冷たいね」


二人でふふっと笑いながら、川岸で涼む。

誰にも邪魔されず、自然に囲まれてこうやって過ごす時間はなんか良い。

水が流れる音、風で木々がざわめく音、時より聞こえる鳥のさえずり。

……和むねぇ。


――少し時間が経ち、熱を帯びてた体もクールダウンしてきた。

座ったままぐーっと背伸びをして、隣を見ると、明日香はぼけーっとしている。

何かを考えているようだ。


「どうしたの明日香」


「んー、パーカー脱ごうか悩んでるの」


……………………は?

全裸ってこと?

若い男女二人が人通りの少ないところでそれは何も起きないはずがなく……になっちゃうよ。

もしかして、明日香は朝の事を気にしてそんなことを……。

色んなことが頭を駆け巡る。


「なんか変なこと考えてない?」


「……そんなことナイヨ」


「……えっち」


「ごめんなさい」


この場面、男だったらみんな考えちゃうよ……。


「私は水着になろうか悩んでたんだよ。でも思ったより水が冷たいからどうしようかなって」


……水着。

明日香の水着姿。

めちゃくちゃ見たいに決まってる。

あれ、でも水着なんて俺の家に引っ越して来る時、持ってくるはず無いよね。

あの時春だし……買いになんていったっけ?


「水着なんていつ用意したの」


「ひ・み・つって言ったとき」


……あの時か!

夏休みに入って、明日香が弦本さんと西堀さんと遊びに行ったから男三人で恋の家に集まって告白作戦を練ったんだ。

その時に水着を買いに行ってたんだ。


「優は見たい?」


「見たい!」


「ふふっ即答だね。私もあの時楽しみにしててって言っちゃったし、そんなに見たいなら……ね。ちょっと後ろ向いてて」


言われた通り、明日香に背を向けるとジジジとパーカーのジッパーを下げる音が聞こえる。

一体どんな水着なんだろうか……。

明日香の水着姿を他の男に見せることなく、自分だけ見れる。

彼氏の特権を噛みしめて待っていると、


「もういいよ」


明日香からそう告げられ、回れ右をする。

パーカーの間から見えるのは上下黒の水着。

胸元にはフリルがついており、セクシー3のかわいい7って感じの水着だ。


「どう……かな」


明日香は照れながら、パーカーの裾を握り、こちらの感想を待っている。

……そんなのさ、


「似合ってるよ。すごく似合ってる。世界一かわいいよ」


「そう……ありがと。優も世界一かっこいいよ」 

 

なーんかまたバカップルみたいになってるけど、ここら辺誰もいないし、今日くらいバカップルになったって良いよね。


それにしても、改めて明日香の水着姿を見ると出るとこ出てて、引き締まるところは引き締まってて、スタイルが良さがよく分かる。

よく分かるだけに、ここが人の多い海やプールとかじゃなくて良かったと心から安堵する。

ここがそういうところなら絶対ナンパされてただろうし、なにより他の人に見せたくない。

……俺はちょっと独占欲が強いのかも知れない。

重い男には出来るだけならないようにしようと勝手に心に誓った。


「そういえば明日香さ、水着見せるために川に誘導したでしょ」


「バレちゃったか」


テヘッじゃないのよテヘッじゃあ。

やれやれ、かわいい彼女は今日も小悪魔なのかもしれない。

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