第60話 二度見
「これおいしい! おばあちゃん天才だね!」
「そうかいそうかい。もっと食べておくれ」
……何があったのこの二人。
やっとの思いで人数分の魚を釣り終え、家に帰ってきてみれば、いつも通り笑顔の明日香と見たこと無いくらい優しい顔をしたばぁちゃんの姿がそこにあった。
ばぁちゃん、こんな顔すんの?
いつもの無愛想ばぁちゃんはどこいったんだろ……。
「ねぇ、優。美味しいよね!」
「あ、ああ。うん、美味しいよ」
夕飯は釣りたての川魚のフライと畑で収穫された野菜を使った料理の数々。
どれもこれも美味しい、それは昔から知っているんだが……。
「そうかい」
仏頂面で味噌汁を飲むばぁちゃん。
え、もしかして俺にだけ無愛想なの?
さっきまでの笑顔どこいった。
いや、別に無愛想なのは昔からだから気にしないけどもなんか明日香との態度の差がここまで違うとショックといえばショックだ。
「おばぁちゃん、笑顔笑顔」
「こうかい?」
なんか明日香と話してる時は笑顔だし……二人で何喋ってるか分かんないけどさ。
そう思いながら、ご飯を掻き込み。
ごちそうさまと言って、部屋に戻る。
ばぁちゃんと明日香が仲良くしてることはとても良いこと。
良いことなのに……。
心が狭いなぁ……俺って。
ばぁちゃんの家に到着する前はあんなに二人の関係が上手く行くか心配していたのに……。
部屋に着いたと同時に疲れが一気に押し寄せる。
そりゃそうだよね。
長時間の移動に加えて、半日釣りしてたし……。
でも寝るのはお風呂に……入って……からにしないと……。
――っ!
目を覚まし、スマホの時計を確認する。
時刻は19時半といったところ。
ガッツリ寝た訳では無いらしい。
大きなあくびをして、背伸びをする。
仮眠したとはいえ、まだ眠気はある。
ていうか眠気しかない。
とりあえずお風呂に入って、さっさと寝ようと考え、着替えを持って風呂場に向かう。
寝起きで視界がぼやけている。
ふらふらとした足取りで廊下を歩き、風呂場に到着。
着ていた衣類を脱ぎ、脱衣かごに入れようとしたが埋まっているので衣類を床に置き、風呂のドアを開けた。
風呂場はもくもくと湯気が立ち込めており、ただでさえ寝起きで視界がぼやけているのに、湯気のせいでもはや何も見えないレベルになっていた。
手探りでシャワーを見つけ、お湯を出し、頭から浴びる。
あー、気持ちいい。
心地良い温度のお湯の粒が頭を程よく刺激してくれる。
1日の疲れがふっと……ぶ……………………脱衣かごが埋まってる?
シャワーを浴びて頭がスッキリしてきたのだろう。
だんだん自分の状況を理解し始める。
まさかと思い、ゆっくりと浴槽の方へ顔を向けるとそこには恥ずかしがりながらこちらを見ている明日香がいた。
俺は一旦顔の向きを正面に戻し、深呼吸してから二度見した。
「なんで二回見た!?」
「いや、夢かなぁと思って」
夢みたいな映像だったけどね。
この映像は頭の中で絶対忘れないようにしよう。
クラウド保存とか出来ないかな。
「優のえっち」
優のえっち頂きました!
このセリフ、言われたの二回目だけど相変わらずインパクトあるなぁ……。
何回でも聞きたい。
男の子だもん。
「なんで俺が入ってきた時になんも言わなかったの?」
「優があまりにも堂々と入ってきたから言葉がでなかったんだよ!」
ぐうの音も出ない程の完璧な答え。
申し訳ない。
「ごめん、じゃあ俺一旦出るね」
ここは明日香がお風呂から上がるのを待った方が良いと判断し、出ようとすると腕を掴まれる。
「……別に出なくていいよ。今のまま出たら、優が風邪引いちゃいそうだしさ」
「でも……」
「大丈夫だよ。お風呂広いし、二人くらいなら入れるよ」
え……?
一緒に入るってこと!?
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