第57話 親友だよな

「西堀さんは俺にとって先生って感じだったから、恋愛対象として見てなかったけど……かわいいし、しっかり者だし、勉強会で俺の事ちゃんと見てくれてたし……」


言葉の勢いと反比例するように福の顔が赤くなっていく。

恋を自覚する瞬間ってこんな感じなんだ。

見てるこっちまで恥ずかしくなってくる。


「せっかくなら夏休み中に勝負に行こうぜ、俺は来週、親父の実家行くからその他は空いてる。福ちゃんとエビデンは?」


「俺は部活無い日ならいつでも……てか勝負って告白すんの!? 心の準備出来てないんだけど」


「準備なんて要らねぇだろ。当たって砕けろだ」


砕けたらダメでしょ……。


「……じゃあ恋も弦本さんに告白して」


流石サッカー部。

物凄いカウンター攻撃。

流石の恋もこれには予想外だったらしく、険しい表情で悩み出す。


「恋も告白するなら俺も覚悟決めるよ」


真剣に考える恋の視線の先にはクマのぬいぐるみがティーカップの中に入っている姿が見える。

ティーカッププードルならぬ、ティーカップベア。

耳のところにはリボンまでつけてあり、こだわりを感じる。

恋もこういう趣味あるんだと思ったが、ふと思い出す。

……これ、弦本さんが言ってたやつなのでは?

去年はクマのぬいぐるみ、一昨年はリボン、三年前はティーカップ……。

完全にこれだ。


弦本さんは恋が全然喜んでないって言ってたけど喜んでない人がこんなに大切そうに飾るだろうか?

今だってブレスレットを付けてる訳だし……。

早く付き合えば良いのに……。


「分かった。俺も勝負する」


悩み抜いた結果、恋は覚悟を決めて、キリッとした表情を見せる。

頑張れ二人とも!

俺は応援してるよ。

……巻き込まれる前に逃げておこう。

そう思い立ち上がろうとした瞬間、手首を掴まれる。


「エビデーン、どこに行こうとしてるのかな」


「いや、ほら……トイレだよ……トイレ」


はははと笑いながらごまかし、恋の掴む力が抜けた瞬間に逃走を図る。

しかし、まわりこまれてしまった!

逃げ出すのを察知していたように福がドアの前に仁王立ちしていた。

後ろを見ると恋も仁王立ちしている。

あーこれ、あれだ。

同時に倒さないといけないタイプの敵だ。


「お、俺は告白しちゃったから居なくてもいいんじゃ……」


「告白はしなくていいけどさ」

「エビデンはこの中で唯一の成功者なんだよな」


一言話す毎に二人が距離を詰めてくる。

目が怖いよ、二人とも……。


「「俺達親友だよな」」


その言葉、大体親友じゃない時に言われるやつじゃない?

両サイドから肩を掴まれ、座らされる。


「兄ちゃん、助言してれるだけでいいんだよ」

「そうすりゃ悪くはしねぇから」


この後なんか買わされません、これ。

両サイドから男に挟まれて、座らされてる状況ってマルチ商法くらいしか思いつかないんだけど。


「助言ねぇ……」


この二人に助言出来るような事無い気がする。

恋に関してはどう転んでも成功するだろうし、福は普通にしてればイケメンの優男。

普通にしてればね。

成功する可能性を上げるとするならシチュエーションだろうか。

……そういえば夏休みの終わり頃に花火大会があったような。


「そういえば、もうすぐ花火大会なかった?」


「あるよ、確か再来週だったかな。今年は過去際大規模だとかなんとかってポスターに書いてあった気がする」


再来週なら祖母のところに行った後だし、俺と明日香も見れる。


「じゃあベタだけどその時にみんなで集まって、自然な感じで3組に分かれればいいんじゃないかな。クライマックスだと混むだろうから人混みを理由に分かれやすいだろうし」


「……やっぱ彼女いるやつのコメントはちげぇな」

「分かる。アリソンが初めて彼氏っぽいと思った」


福、そういうとこだぞ。

どうせ俺は明日香の彼氏には見えないけどさ。


「じゃあとりあえずその方向でいくか。グループに送っとくわ」


恋はそう言ってスマホをいじると、すぐにメッセージを着信したバイブが俺のスマホに来た。


『(恋)再来週の花火大会みんなで行かね?』

『(福)いくー』


俺も行くと送信しかけたところでハッとなる。

明日香の意思を聞かずに勝手に決めようとしていた。

慌てて送ろうとしたメッセージを消そうとするとグループにメッセージが追加されている事に気づく。


『(明日香)私は優が行くなら行くし、行かないなら行かないよ』

『(明日香)でも出来れば、行きたいかな』

『(西堀)お熱いねぇ……私は行けるよ』

『(弦本)私も行けます』


明日香……出来ればグループじゃなくて個人の方でメッセージして欲しかったな……。

軽く公開処刑だよ……。

ていうか彼女にこんなこと言われたら行くっていう選択肢しかない。

そもそも行く予定だったけどね。


「お前らグループでもバカップルすんな」

「見てるこっちが恥ずかしくなってくる」


恋と福が呆れながら言う。

……二人も再来週にはこっち側になってるかもしれないんだからな!

バカップルになってたら覚悟しとけよ!


『(優)俺も行きたいな』

『(明日香)じゃあ、行こっか』


よし、これでおーけ……ん?

閉じたスマホがまたバイブした。

個人でメッセージが届いてる。

西堀さんから?


『(西堀)有村君が行きたいなってメッセージを送った瞬間だよ』


メッセージの後に続くように画像が送られて来る。

そこにはスマホを片手に安堵したように微笑む明日香の姿が映っていた。

………………っかわいいぃぃぃぃ!!!!!

なにこのかわいい生き物。

一生愛でたい。


『(西堀)ご満足いただけましたか』

『(優)これ以上無いくらいの幸せを噛み締めています』

『(西堀)それは良かった』

『(西堀)ではお代を頂きますね』


その瞬間、パシャリとシャッター音がする。

音の方向を見ると、福がスマホをこちらに向けて構えていた。

どうやら福に写真を撮られたらしい。

……こんなにやけ面を?


「福、消そうか」


俺は立ち上がり、福の元へ向かおうとすると恋に止められる。


「許してやれ、エビデン。西堀との仲を深めるためだ」


どうやら写真を西堀さんに送っているらしい。

お代ってこれかよ……。


『(優)なんで俺の写真がお代?』

『(西堀)明日香ちゃんに肖像権の侵害だと、慰謝料を請求されまして……』


俺達おもちゃにされてるな……。

まぁ、明日香のかわいい写真が手に入ったし、俺の写真が明日香に届くだけならいっか。

何故か福と西堀さんの手にも渡ってるけど……。


「まぁとりあえず、みんなで行けそうで良かったな……ということでゲームでもしようぜ!」

「よしきた! 乱闘のやつしよ!」

「福は速攻で殺る」

「なんでえ!?」


そうして俺は福をとことん殺ったのだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る