第56話 好きかもしれない
「たった一週間でのけ者にされた件について」
福が不機嫌そう顔をしかめている。
明日香の誕生日から3日が経ち、祖母から切符が届いたのだが、切符に書かれた日時は来週。
切符に同封されていたメモ用紙には必ず彼女と来いとだけ書いてあった。
相変わらずのばあさんだと呆れてしまう。
そんな俺は福と一緒に恋の家を訪れていた。
「2人ともさ、女の子とそういう関係なのは周知の事実だけどさ、そんなまざまざと見せつけられると腹立ってくるわけよ」
俺と恋が顔を見合わせて首をかしげる。
見せつけるって言ったってここには明日香も弦本さんもいない。
明日香、弦本さん、西堀さんは3人でどこかに遊びに行ってしまった。
明日香にどこ行くのって聞いたのだが、
「ひ・み・つ。でも……楽しみにしててね」
と言われてしまった。
そんなこと言われたらねぇ……。
ということで暇をもて余すことになり、男達で集まることになった。
「かぁーっ、それだよそれ、2人とも左手どうなってるか、俺に説明してみ」
俺の左手の薬指には指輪、恋の左手首にはブレスレットが付いている。
このブレスレットは弦本さんがショッピングモールで恋のプレゼントとして買ったものだ。
弦本さん、ちゃんと渡せたんだ。
良かった良かった。
「これは舞から誕プレで貰ったんだよ」
「ふぅーん。誕プレねぇ……遅くなったけど今年も誕生日おめでとう」
福のこういうところは好き。
本当、口が軽くなければねぇ……。
「俺はペアのリング、明日香の誕生日プレゼントで買ったやつ。あと、恋、誕生日おめでとう」
「おお、二人ともサンキューな」
素直に喜んでる恋を尻目に福はわなわなと震えていた。
「プレゼントとしてブレスレットはまだ分かる……けど指輪ってなんだよ! 完全に結婚じゃんか! 嫁だよ、嫁!」
嫁って……まだ高校1年生なんだけど……。
でも明日香がお嫁さんになったら嬉しいのは間違いない。
電話で有村ですって言っただけでグッと来るものがあったし、本当に結婚したら幸せすぎて幸福死するんじゃないだろうか。
「思いきったよなー、エビデン」
「体育祭で言っちゃったしね。結婚したい人って」
「公言したとはいえ、それを実行しようとするってのがすげぇよな」
「アリソンのたまに異様なくらい格好良くなるやつなんなの?」
なんなのって言われてもなぁ……。
「狙ってるつもりはないんだけど……」
「自然とそうなるとかチートだろぅ……」
弱々しくなる福。
福ってこんなキャラだったっけ?
最初の頃はイケメンで人当たりが良くて、サッカーがめちゃくちゃ上手い人っていう印象だったのに、今では口滑らし魔の残念イケメンになってる。
でも残念イケメンはイケメンには変わりない訳で余計なことを喋らなきゃ普通にモテる気がするんだけど……。
「福ちゃん、普通にモテるだろ。中学の時とか普通に試合の後とか女子に告られてたし、バレンタインとか食いきれないくらいチョコ貰ってただろ」
モテるじゃん……。
バレンタインにチョコなんて母さんからしか貰ったことないよ……。
ていうか食べきれないくらいチョコ貰うって本当にあるんだ。
アニメの世界だけだと思ってた。
「俺はちゃんと自分が好きだと思った子と付き合いたいの。ちょっと見ただけで好きって言う子と続くとは思えないし……俺、中身残念だしね」
自覚あるんだ……。
意外にも福はしっかりした恋愛観を持ってるみたいだし、そのうち彼女出来そうな気がする。
「贅沢言うならアグレッシブに自分から行けよ。待ってるだけじゃ永遠に来ねぇかもしれねぇぞ」
恋……それブーメラン。
弦本さんにもアグレッシブに行って、早く付き合いなよ。
「好きだと思った子って今までいないの?」
「いないんだよぉ……」
いないんじゃあ、どうしようもなくない?
せめてタイプでも分かれば……。
「じゃあ、どんな子が好きなの?」
福はうーんと唸りながら腕を組み、少し考えた後、口を開いた。
「まず、顔がかわいい」
初手、外見はどうかと思うよ……。
かわいいの大事だけども。
「それでいて、しっかり者」
ふんふん。
それでそれで?
「最後に、面倒を見るっていうかちゃんと俺の事を見てくれる人」
「それって?」
「ほら、俺って口を滑らしたりするじゃん? そういうところを管理してくれるっていうか、制止してくれるような人だといいなって」
「つまりは世話焼きってことか?」
「まぁ、そんな感じ」
かわいくて、しっかり者で、世話焼き?
……なんか即効で思い当たる人物いるんだけど。
「西堀さん……とか?」
かわいいし、しっかり者だし、弟達の面倒を見てる世話焼き。
条件としては完璧に当てはまってる。
「エビデン……西堀なら、まあまあ一緒にいただろ。それなのに福ちゃんが好きになってないってことはさ」
まぁ確かに……。
勉強会でも何回か、福と西堀さんは絡みがあった。
それなのに福が西堀さんを好きとは一回も言ってない。
ってことは脈無しだよね。
「……いや、俺、西堀さん好きかもしれない」
「「え?」」
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