第52話 最も暑い一日③
「もう~えっちゃんたら、明日香も息子さんもびっくりしてるわよ」
「ごめんごめん。息子が見てると思ったら抑えられなくて」
「そうよね。私達あんまり時間ないもんね」
あははと笑う、未侑さんと母さん。
ブラックジョークすぎません?
これを見ているこっちはどんな顔すればいいか分からないよ……。
にしても、未侑さんと母さん仲良いとは聞いていたけど、本当に仲良かったんだ。
母さんが病院で他の人と喋っているのあまり見たことなかったからこうして見るのはなんか新鮮だし、少し嬉しい。
……そういえば、この動画って明日香とその彼氏に向けた動画なんだよな。
なんで母さんがいるんだ?
それに二人とも俺がこの動画を見てるって分かっているのもおかしい。
「きっと今頃、明日香ちゃんとその彼氏さんに向けた動画なのに、なんで私とみっちゃんが自分のことを言ってるんだろうって思ってるわよ」
母さんもエスパーでした。
これ撮ったの数年前だよね?
実はリアルタイムとかじゃないよね?
……リアルタイムならいいのにね。
「明日香もなんでって思ってるわよ。あなた分かりやすすぎるのよ。そういうところも可愛いけど、少しは隠しなさい。有村君大好きって丸わかりよ。見てるこっちが恥ずかしくなってきちゃうわ」
隣の明日香を見ると、顔が赤くなっている。
分かりやすい。
俺も恥ずかしくなっちゃう。
こういうところも好きだけどね。
「ということで有村君。私達があなたのことを言ってる理由はそういうこと。私もあなたなら大賛成よ。これで悔いなく逝けるわ」
「もうみっちゃんたら、まだ早いわよ」
あははと再び笑う二人。
だから笑えないって……。
でも母さんこんな感じでよく笑ってたよな。
辛い時でも悲しい時でも母さんが元気に笑い飛ばしてくれるから元気が貰えた。
懐かしいな……。
笑えないはずなのに口角が上がって来てしまう。
でもそれは仁さんも未来さんも明日香も同じようだった。
みんな口元はにっこりして、目元は懐かしいものを見るような穏やかな目をしている。
「あら、もう5分も経ったの!? じゃあ、そろそろ本題に行こうかしら、まずはあなた」
言われた瞬間、後ろで仁さんがピシッとするのを感じた。
あなた呼びなんだ……なんかいいよね。
「私が亡くなって、男手一つで小さい未来と明日香を育ててみてどうだった? 大変だったよね」
仁さんがふふっと笑う。
そうだねって答えてるみたいだ。
「……でも私はあなたが羨ましいな」
「だって、二人がどんどん可愛く成長していく過程を一番近くで見れたんでしょ? 私も見たかったなぁ……」
未侑さんの表情と声音が相まって心の底から言っていると理解する。
「まぁ、あなたが育てたなら二人はきっとすごく可愛くて、すごくいい子になったんでしょうね」
仁さんはそうかなと言う感じで人差し指で頬をポリポリと掻いている。
それは間違いないです。
明日香も未来さんもめちゃくちゃ可愛くて、いい子……だと思います。
ちょっと未来さんがいい子かどうかはなんとも言えないですけど……。
「ほら! シャキッとして胸を張りなさい! この子達はあなたが育てたのよ。こんなに可愛い子達をあ、な、た、が育てたの。自信持ちなさい」
未侑さんに言われた通り背筋を伸ばして、胸を張る仁さん。
……やっぱ未侑さんと仁さんって、明日香と俺にそっくりな気がする。
仁さんが未侑さんから自信を貰ってるように俺も明日香から貰ってるしね。
俺達もこんな関係になれたらいいな。
「まぁ注意するのもこれくらいにして、最後に……あなたと私の宝物を立派に育ててくれてありがとうね、仁……ずっと愛してる」
その瞬間、仁さんの目から光るものが1滴、2滴と落ちる。
……感動的なシーンなのに画面から母さんのキャーっという声が聞こえるせいで台無し感がある。
空気読んでよ母さん……。
友達の恋バナ聞いた女子高生じゃないんだからさ……。
「次に未来。どう? 彼氏は出来た? 多分出来てないわよね」
容赦ねぇな、未侑さん。
あの未来さんがぐぬぬって顔してる。
「未来は普通にしてれば、男の方から寄ってきてモテるはずだけど……そういう男はロクなやつ居ないから気をつけてね」
なんか体験したことあるみたいな言い方だ……。
妙に感情が
「大丈夫。私だってお父さんみたいな人見つかったんだから、未来にもそのうち出来るわよ。最悪出来なかったら有村君に慰めて貰いなさい」
なんで俺なんですか……。
未来さんの場合、そのまま我が家に残りそうで怖い。
ちょっと未来さん、こっち見ないで。
よろしくねみたいな顔しないの。
「でも健康で元気に生きててくれれば私は一番嬉しいから……立派に生きてね。未来」
うんと頷く未来さん。
その顔はいつもより凛々しい。
いつもこうしていればすぐに彼氏できそうなのに……。
さて仁さん、未来さんときたら……。
「次は明日香」
ですよね。
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