第50話 最も暑い一日①

最高気温37℃

今年一番の熱波到来。

いつもよりもアブラゼミの鳴き声が三割増しくらい元気に聞こえる気がする。

明日香の誕生日は一年で最も暑い日に迎えることとなった。


こんなうだるような暑さの中、この前みたいに二人で暑い暑い言いながら高憧家に向かって歩いて……ないんだなこれが。


俺と明日香は仁さんの車に乗って、高憧家に向かっていた。

仁さんが今日は暑いからと気を利かせて車で迎えに来てくれたのだ。

これだから仁さんは……しゅき。

おかげでクーラーが効いている快適な車内で悠々と過ごせる。

毎日これで移動したい……。

明日香もさぞ極楽だろうと思って見てみるとなんだかそわそわしているというか落ち着きがない。

この後、なんかありますよって言ってるようなものだ。

気持ち良くサプライズさせてあげるためにこちらから先に布石を打っておこうかな。


「明日香、今日は一体何するの」


俺は明日香に日曜日空けておいてとだけ言われただけ。

それ以外の情報は何も知らないていで進めよう。

そうなると空けておいてと言われて、何をするのかずっと聞かないのは逆に怪しいし、ここで聞くことによって本当に何も知らないということをアピール出来る。

我ながらなかなかの策士っぷりだ。


「ふふふ、それは家に着いてからのお楽しみだよ」


上機嫌そうな明日香、仁さんもその様子を見てニコニコしてる。

二人とも嬉しそうでなによりです――。


そうこうしてる内に高憧家に到着。

そしてドアが開くと同時に未来さんが飛び込んでくる。

デジャヴだねぇ。


「お帰り~明日香……スゥーハァ、スゥーハァ、今日も良い匂いだねぇ……ゲヘヘヘ」


未来さん……俺には犯罪の香りしかしません。

久々の明日香吸いだからか、未来さんの目が完全にキマッてる。

明日香の匂い成分に非合法なやつ含まれてません、これ。

本当に大丈夫?


「暑苦しいからやめろ、姉!」


美女二人がくっついてるこの絵面。

眼福なんだけど流石に今日の気温も相まって本当に暑そう。


「ほら、明日香も未来も暑いから早く家に入りなさい。二人が入らないと有村君も入りづらいだろう」


「「はーい」」


仁さんの一言ですんなり従う姉妹。

てぇてぇなぁ。

仁さんも負けず劣らずだけどね。


とりあえず二人の後に続いて家に入ろうとすると、明日香に止められる。


「優、5秒経ったら入ってきて」


……なんで?

まぁ待ちますけども。


「いーち、にーい、さーん」


何故にそっちがカウント!?

俺が数えるんじゃないの。


「しーい、ご! いいよ入ってきて」


そう言われて玄関の扉を開けると同時にパァンという音と火薬の香りがする。

クラッカーってやつだ。

目の前には明日香と未来さんと舞落ちる紙吹雪。

非常にきらびやかな光景で目を奪われる。

でも…………なんで俺!?

これ明日香にするべきじゃない?

俺が主役みたいになってるんだけど。


「な、なに、これ」


「ふふふ、実は今日は私の誕生日なんだよ!」


うん。

だからなにこれ。

え、そうなの、知らなかったなぁ、ってすっとぼけるはずだったのにあまりにもワケ分かんなくて思考がフリーズしてしまった。

高校の自己紹介以来のフリーズである。


「おーい、優。戻ってこーい」  


明日香に肩を掴まれ、揺さぶられて我に返る。


「あ、え、誕生日。おめでとう、明日香」


「ありがとう。優に祝って貰えて……嬉しい」


あらまぁ照れちゃって、うちの彼女は本当にかわいいねぇ……。


「あ゛あ゛あ゛っっっうちの妹かわい過ぎかよ! てぇてぇなぁおい、優君よ」


まじぱねぇっすね、姉さん。

うんうん頷いて同意する。


「明日香、ちなみになんで俺にクラッカー放ったの?」


「え、なんか、サプラーイズ……みたい、な」


言ってる内に照れが入ってきて後半すっごい小声。


「未来さん、俺の彼女かわいすぎるんですが」


「わかりみが深い」


それを聞いてさらに照れる明日香を見て、未来さんとグータッチする。


「こらこら三人とも、玄関にいないで早く入ってきなさい。ご飯もう準備出来てるから。明日香の誕生日だからいつもより豪華にしたからね」


「やったぁ! ごはん、ごはんっ」


ご飯と聞いて明日香はすぐリビングに入っていった。


「こういうところもかわいいっすよね」


未来さんは噛み締めるようにうんうんと頷く。

流石姉さん分かってるぜ。


「そういえば未来さん。ショッピングモールの時なんで写真撮って明日香に送ったんですか。おかげで俺、死んだかと思いましたよ」


「ああ、あれね。本当は優君のためだったんだよ」


「え、俺のですか」


「そう。あの時の優君見た感じ、明日香に内緒で出掛けたのかなと思って」


「……なんで分かるんですか」


「そりゃ見れば分かるよ。私、同じ電車乗ってたのに全然気づかなかったでしょ。ずっと優君、落ち着きが無かったし、ショッピングモール着いたら女の子いるし、これはやってんなぁと思って」


女性怖すぎる。


「でもまぁ優君の事だし、なんかしら理由あるだろうからさ、私とツーショット撮って、明日香に送っておけば誤魔化しになるでしょ。まぁ話聞いたら全然浮気じゃなかったから舞ちゃんと絢香ちゃんも写ったままの写真にしたけどね」


未来さん……。

勝手に俺の事を苦しめるために明日香に送ったと思ってました。

すみません。


「後、あの写真送ることで明日香への誕生日プレゼント選ぶ時間も作れるかなって、みんなで出掛けてるならすぐに帰ってこないことを暗示出来るでしょ」


未来さん……。

その人ただのシスコンだよとか心の中で言ってすみません。


「本当にありがとうございました」


「いいのいいの。それでプレゼントは買えた?」


「はい、サプライズで家に帰ってから渡したいと思います」


「そっかそっか、じゃあ思いっきり明日香を喜ばせてあげてね」


そう言うと未来さんはリビングに入っていった。

未来さんって結構な切れ者かもしれない。

短時間でそこまで予測して行動したとすると凄すぎる。

でも、明日香が絡んでることだから出来ている気もしなくもない。

未来さんのイメージがただのシスコンからすごいシスコンへランクアップした瞬間だった――。




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