第49話 久々の罰ゲーム

「ただいまー」


「お帰り、優。アイスは買ってきてくれた」


ほいとビニール袋を渡す。

駅で西堀さんと別れ、家の近くのコンビニで2人分のアイスを購入し、家に帰ってきた。


「あ、これお高いやつじゃん! どうしたの」


「ちょっと食べたくなってね。マカダミアナッツとラムレーズン、好きな方選んで良いよ」


「センスいいねぇ。私はラムレーズンっ」


アイスではしゃぐ明日香、かわいい。

ソファーに座り、アイスを食べ始めると幸せそうな顔をしている。

その顔を見るだけで買ってきて良かったと思える。


「暑いから余計に美味しく感じるよ。買ってきてくれてありがとう、優。ほい、これお礼」


明日香はそう言うと、ラムレーズンのアイスをスプーンで掬い、こちらに向ける。


「はい、あーん」


言われるがままに口を開け、ぱくりとアイスを頂く。


「うん、おいしい……気がする」


味がよく分かんない。

だって唐突な男子の憧れのシチュエーションなんだもの。

甘いなぁってことくらいしか分からなかった。


「こっちも明日香を待たせたちゃったから、お詫びにどうぞ」


「いいの! やったぁ! あーんってして」


俺もやるのね……。

マカダミアナッツのアイスをスプーンで掬い、明日香の口元に運ぶ。


「はい、あーん」


「あーん」


モグモグする明日香、時より聞こえるナッツのポリポリとした音が心地よい。

なんか餌付けみたいで良いなこれ。


「これやると、味よく分かんないね」


はにかみながら明日香はそう言う。


「でしょ」


2人で笑いながら、アイスを食べさせ合う。

バカップル度が前よりも明らかに上がってる気がするけど、楽しいからいっか……。


「ところでさ、優」


「ん、どうしたの」


「浮気デート、楽しかった?」


…………え?

な、な、なんで知ってるの???

しかも、なんで笑顔のまんまなのさ。

逆に怖いんだけど……。


「黙ってるってことはやっぱそうなんだ」


違う、断じて違うけど、さっきから言葉を発せれない。

明日香さん、覇気みたいなの纏ってません?

せめてもの抵抗で必死に首を横に振る。


「ふふっ、冗談だよ。でも、女の子と出掛けるなら言って欲しかったなぁ」


そう言って明日香はスマホを見せる。

明日香のスマホにはメッセージアプリの画面が表示されており、1枚写真と共にひとこと添えられていた。


『(お姉ちゃん)舞ちゃんと絢香ちゃんと3人で浮気デート』


未来さんかぁ……。

写真にはテヘって感じに舌を出している未来さんを中心に俺の後ろ姿とカメラの方を向いてキョトンとしてる弦本さんと西堀さんが映っていた。

いつの間にこんなの撮ったの……。

後ろ向いてる瞬間を狙うなんて卑怯だぞ!

ていうか俺、未来さんに背後取られたの喫茶店出たときくらいなんだけど、なんでそのタイミングで撮ってるんだろ。

自撮りにわざとらしく映して、「よく見たら優君映ってる、あれれ、女の子達といるけど浮気かな」とか明日香に報告するつもりだったのだろうか。

だとしたら怖すぎるが、流石に被害妄想が過ぎるよね。


「それで、優はなんで舞ちゃん達と出掛けるって言ってくれなかったの」


ちょっと悲しそうな顔で明日香が問いかける。

……本当になんで言わなかったんだろう。


「言うべきだったよね。浮気とかそういう気は全く無かったけど、友達が困ってて、それを助けるだけならいっかと思って……でも、俺とおんなじ状況だったとしても、明日香が他の男と一緒に出掛けたら……嫌だなって後から思った。本当にごめん」


深々と頭を下げ謝る。

あれ、今の発言、束縛きつめじゃない?

そう思ってパッと顔を上げるとさっきの悲しげな表情が嘘かのように明日香は嬉しそうにしていた。

なんで?


「優も嫉妬するんだね」


するよ、人間だもの。


「私もそういう気持ちだったんだよ」


「……ごめん」


「じゃあ、罰ゲームでもして貰おうかな」


久しぶりにそのワード聞いたなぁ。

どうかお手柔らかにお願いします……。


「日曜日空けておいて」


日曜日って確か……明日香の誕生日だ。

「家に呼ばれてるでしょ」とか未来さん言ってたし、家に連れてかれるのかな。

……罰ゲームなんて言わなくても行くんだけど。

明日香なりの照れ隠しなのだろうか。

かわいいやつめ。


「仰せのままに」


明日香の誕生日を知らないはずの俺がサプライズで誕生日プレゼントを渡したら、明日香はどんな顔をするのだろうか。

付き合いたての誕生日プレゼントにしては重かったかもしれない……でも明日香なら喜んでくれるような気もする。

日曜日が不安半分楽しみ半分といった感じだ。


「そういえば舞ちゃん、何に困ってたの」


「恋への誕生日プレゼントだよ」


「へー愛久澤君も誕生日なんだ」


「愛久澤君"も"」


あ、やべ、つい反応しちゃった。


「ああ、ううん、なんでもない。本当になんでもないからね。それでなんで誕生日プレゼントに困ってたの」


誤魔化し方が下手だなぁ……。

これ未来さんに明日香の誕生日って言われなくても分かってたかもしれない。


「なんていうか、その弦本さん……プレゼント選びのセンスがね……」


「愛久澤君なら何貰っても喜びそうだけどね」


俺もそう思った。


「ちなみにここ3年でぬいぐるみとリボンとティーカップをプレゼントしたみたい」


「愛久澤君って女の子だっけ」


俺もそう思った。


「だからアドバイスしに行ったんだよ」


「なるほどねぇ……それで結局何にしたの」


「それは多分もう少しすれば分かるんじゃないかな。夏休み中にみんなで遊ぶだろうし」


「えー気になるなぁ」


「その時の楽しみにしておきなさい」


きっと前よりも距離が近づいてるはずだ。

どんな感じになっているのか俺も楽しみにしている。

頑張れ、弦本さん、恋。

有村優は二人の関係を応援しています。

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