第48話 押してダメならもっと押せ
「有村君……」
「有村さん……」
「「二股?」」
この状況が浮気現場だと思うなら眼科をおすすめするよ!?
会って早々にヘッドロックかけてくる彼女はさすがにどうかと思う。
「違う違う!この人は明日香のお姉さんの未来さん」
「あー、姉妹どn……」
シャラップ!!!
西堀さん、それ以上はいけない。
健全な女の子が発して良い言葉じゃないからね。
「一気に二人とデートかい、優君。二人とも可愛いし両手に花だねぇ。君は花にたかる虫……いや、害虫かな?」
言い方怖いって……。
仮にそうだとしても二人同時にデートするわけがないでしょ。
そう思って未来さんの顔を見る。
あ、ダメだ、この人正気じゃない。
目がマジだ。
そういえば高憧家に泊まった時、仁さんも正気失ってることあったなぁ。
父譲りということなのだろうか……。
「誤解ですよ未来さん!今日はみんなで誕生日プレゼント選びに来たんです!」
「……なんだぁそうだったのごめんね。明日香の誕生日、今週の日曜日だもんね。私は優君のこと信じてたよ」
未来さんがヘッドロックを解除する。
拍子抜けするくらい、すんなりと引き下がってくれた。
でも絶対信じてなかったでしょ。
あと少しで落ちるところだったんだけど……。
…………ん?
明日香の誕生日?
日曜日!?
「え、日曜日が明日香の誕生日なんですか!?」
「うん。そうだよ。日曜日、家に呼ばれてるでしょ?」
「初耳ですよ!?」
そんなこと明日香、一言も言ってなかった……。
なんでかな?
「じゃあ誰の誕生日プレゼント選びに来てたの?」
「体育祭の時、告白のアシストしてくれた男の子です。まぁ、正確にはこちらの弦本さんがその子に渡すプレゼントのアドバイスが欲しいとのことで俺とこちらの西堀さんが一緒に見て回ってました。二人とも同じクラスで明日香とも仲良いですよ」
「初めまして、弦本舞です。明日香ちゃんとは仲良くさせて貰ってます」
「私は西堀絢香です。明日香さんとは同じ人が好きなもの同士仲良くやらせていただいてます」
うぐっ……。
西堀さん、その言葉は俺に効く。
ていうか未来さんの前でそれ言うとややこしくなりそうだからやめて……また浮気疑われてヘッドロックかけられちゃう。
恐る恐る未来さんを見ると、あの時の子かぁと呟いている。
西堀さんが体育祭で告白したの覚えてたんだ。
「私は高憧未来、明日香の姉です。舞ちゃん、絢香ちゃん、明日香と仲良くしてくれてありがとうね」
見たことないくらい優しい表情をする未来さん。
そっか。
未来さん、明日香の友達と会うの初めてだもんね。
今まで明日香に友達がいなかった事を知ってる身としてはその表情になるのもすごく分かる。
にしても美人だよなぁ、未来さん。
さっきから横を通る人達がちらちらと未来さんを見ている。
顔もスタイルも良い人がこんな優しい表情してたら、それはもう男性ホイホイだよね。
本当、重度のシスコンじゃなければ完璧なんだけどな……。
「ふむ、さては舞ちゃん、その人が好きなのかな」
「……っ、分かり……ますか?」
「分かるよ。顔が恋する乙女だもん」
また顔が赤くなり始める弦本さん。
この子分かりやすすぎるのよ……。
「その子は相当、良い子なんだね」
「……はい、そうなんです。私なんかが釣り合わないくらいで」
なんか未来さんが似てる発言聞いたことあるなぁって顔しながらこっちをにやにやして見てる。
ソウデスネ。
ワタシソックリデスネ。
「そういうの気にしちゃダメ。釣り合いなんて人によって違うんだから。今、舞ちゃんは天秤を想像してるかもしれないけど、その子からしたら天秤じゃなくて板が平面に乗ってるだけかもしれないよ」
これ仁さんが言った事、丸パクリだな……。
未来さん、すごいドヤ顔で言ってる。
弦本さんも西堀さんも大人だ……みたいな視線送ってるけど、騙されないでね。
その人ただのシスコンだよ。
「押してダメなら引いてみろとかあるけど、恋する乙女は攻めてれば良いの!押してダメならもっと押せ!男なんて案外コロッと行くもんだからさ……ね!優君」
「なんでこっちに振るんですか……まぁ、そうですけどね」
大抵の思春期を迎えた男の子は女の子が思っている以上にちょろい。
目が長めに合ったとか、同じ班になって喋ったとか、そんな些細なことで好きになる生き物だ。
にしても未来さんにそんな迫られ方したら、ほとんどの男性は恋に落ちるだろうな。
明日香もかなりアグレッシブだったけど、未来さん直伝なんだろうか……。
「なんか行ける気がしてきました!夏休み攻めたいと思います!」
「その意気だよ、舞ちゃん。頑張って。じゃあそろそろ、お姉さんもプレゼント選び始めようかな、優君、それじゃ日曜日ねー」
そう言うと未来さんは人混みの中に消えていった。
「目的果たしましたし、人も増えてきたので、他の人に見られて、また誤解を生まない内にそろそろ帰ります。有村さん、西堀さん、今日はお手伝いいただき、ありがとうございました」
「ううん、どういたしまして。頑張ってね、弦本さん」
「愛久澤君、喜んでくれるといいね」
「はい!お二人のおかげで今年はあっくんに喜んで貰える気がします!それではまた」
弦本さんを見送り、俺と西堀さんの二人きり。
家では明日香と、ショッピングモール着いた時には弦本さんと、そして今は西堀さんと二人きり。
おかしい、ただ友達を手伝っただけなのにクズっぽい。
「さ、てと、買うんでしょ」
西堀さんが伸びをしながら喋る。
「高憧さんへのプレゼント」
俺は「うん」と答える。
「もう目星はついてるの?」
「そうだね。体育祭であんなこと言っちゃったしね」
「そっか……じゃあ買うところ私も見て良い?」
「良いけど、お店の人に勘違いされるかもよ?」
「私は全然良いけど、むしろされたい」
「買うときに店員さんに言われたらこの子じゃない別な子にあげるんですって言おう」
そう言って俺は歩きだす。
「ふふっ、クズ男ムーブだね。嫌いじゃないよ」
そう言って西堀さんは付いてきて、俺が明日香への誕生日プレゼントを買うまできっちり隣に居たのだった――。
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