第46話 誤解と和解

「……高憧さん、補習中だよね。なんで二人でいるの」


西堀さん……怒ってる?

西堀さんって弦本さんから今日誘われてたのを断ったんだよね?

なんでここにいるのかは分かってるはずなのに…………もしかして。


隣の弦本さんを見ると、またあわあわしてる。

これ内容伝えてないな……。

空いてますかって聞いただけだこれ。


「誤解だよ。西堀さん。今日弦本さんと来たのは……」


ここまで言ったところで西堀さんの下の弟さんが近づいてきた。

どうしたんだろうと思っていると、ローキックが炸裂。

予期せぬダメージで思わずうずくまる。


ぬぅおぉぉぉっっっ!!!

この小童こわっぱ……的確にむこずねを狙ってきおったわい……。


「こら!隼人はやと何してるの!謝りなさい!」


西堀さんが注意するが、下の弟の隼人君は西堀さんの後ろに半分隠れて、こちらにあっかんべーをしている。


「ご、ごめんね。有村君……」


「いいよいいよ。弟さん元気だね……」


そう言って立ち上がる。

まだズキズキする……。

良い蹴りだったぜ……ボーイ……。

強がって、隼人君に微笑むと流石に引いていた。

勝った。

これが高校生の余裕だ。

隼人君、よく覚えておくんだゾ。

小学生に対するマウントもこれくらいにして、話を戻す。


「さっきの続きだけど、今日は弦本さんが恋の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。俺はそのアドバイザーとして呼ばれた。それだけだよ。何もやましいことはない」


そうだよね、弦本さん!

そう思って弦本さんを見ると、顔を赤らめながら、うんうんと頷いている。

……この子、もしかして今頃異性と二人きりってことに気づいた?

こりゃ恋も俺が守ってあげなきゃってなるわ……。

頑張れよ、恋。


「ごめんなさい。私、勝手に勘違いして……。隼人もいつもはあんな子じゃないんだけど……」


……よっぽど俺が気に入らないんだろうか。

勘違いとは言えお姉ちゃん怒らせたし、印象は悪いかもしれない。

でも蹴るかな普通……。


「あの有村さん。ちょっとだけ二人でお話良いですか」


そう言ったのは西堀さんの上の弟さん。

なーんかさっきからずっと俺の事じっと見てるの気になってたんだよね。

断る理由も無いし、承諾する。


「ちょっとしゅう、有村君と何を話すの」


「姉貴は隼人見てて、すぐ終わるから」


西堀さんや弦本さん達から少し離れた場所に移動し、集君が話し出す。


「まずは隼人がすみません。あいつ加減とか分からないんで結構痛かったっすよね」


この子……良い子!

初対面の人に自分が悪い訳じゃないのに頭下げて謝ってる。

……社会人かな?

こんなん見せられたらお兄さん許しちゃう。

元々許してるけど。


「大丈夫だよ。それなりに体鍛えてるし、全然平気。でもなんで俺、蹴られたんだろう。隼人君に対して何かしちゃったかな」


「あー、多分、隼人は有村さんだから、蹴ったんだと思います」


え、何、有村キラーなの隼人君。

全国の有村さん、隼人君にご用心。


「それはどういうこと」


「有村さん、姉貴の事……振りましたよね?」


「うん……それは西堀さんから聞いたの?」


「いや、その……体育祭の日に姉貴が部屋で泣きながら有村さんの名前呼んでたんで……俺と隼人はそれ聞いちゃってて……」


そっか、西堀さん、家でも泣いてたのか……。

そんなに俺の好きでいてくれたんだ……本当に申し訳ない。


「隼人は姉貴の事大好きで、姉貴の事は俺が守るってよく言ってるんで、多分有村さんが姉貴を泣かせた人って覚えてしまってて蹴ってしまったんだと思います」


そりゃ蹴るよな。

家のために頑張ってくれて、お休みの日もこうやって遊びに連れてきてくれる優しいお姉ちゃんを泣かせた奴だもんな。

知ってる情報がそれしかなかったら俺でも蹴る。


「あの……有村さん。ちなみになんですけど、なんで姉貴を振ったんですか。弟の俺が言うのもなんですけど割と好物件だと思うっすよ。頭良くて、家事出来て、顔もそれなりに良いですし……」


ははーん、さてはこれを聞きたくて俺の事ずっと見てたな。

にしても隼人君といい集君といいお姉ちゃん大好きだね。

推せるわぁ……じゃなくて、ちゃんと話してあげなきゃね。


「俺も好きな人いてね。体育祭の日に俺もその人に告白したんだ。そしてOK貰えた。西堀さんはすごく魅力的だし、告白も嬉しかった……嬉しかったけど、自分の気持ちに嘘はつけなかった。ごめんね、お姉ちゃん振って」


「あー、納得っす。それは姉貴振られても仕方ないっすね」


かっるぅぅぅ。

さっきまでの食い付きが嘘みたい。

集君は推理もののお話とかだと、謎解きの過程はどうでもいいから答えだけ見たいタイプだ。

……多分。


「でも少し安心しました」


「え?なにが」


「姉貴、男見る目あったんだなって」


あ、集君好き――。


集君と話を終えて、西堀さんと弦本さんの所へ戻る。


「お、きたきた。集、有村君に変なこと聞いてないでしょうね」


「聞いてねぇよ……。ちょっと男同士の話をしてただけだって。有村さんめっちゃ良い人だったよ」


もう!

ストレートに良い人って言われると照れちゃうじゃんか。

集君、絶対学校でモテるでしょ。

この人たらしめ。


……おや?

今の集君の発言を聞いてちょっと離れたところにいる隼人君の様子が変わった。

さっきまで俺の事を見るなり、あっかんべーしてたのに、もじもじして下を向くようになった。


もう一押しかなぁ……。

そう思って俺は隼人君に近づき、中腰になって目線の高さを隼人君に合わせる。


「ねぇ、隼人君」


聞こえてはいるだろうが、まだ隼人君は下を向いている。

怒られると思ってるのかな?


「ごめんね、お姉ちゃん泣かせて」


俺が隼人君に聞こえる声でそう言うと、隼人君はびっくりしたような顔をしてこちらを見る。

やっと、ちゃんと目を合わせてくれた気がする。


「隼人君はお姉ちゃんのこと好きだし、大切だよね」


隼人君はこくりと頷く。


「俺にもそういう人がいてね。その人を守りたい、笑顔にさせたいと思って頑張ってたら、結果としてお姉ちゃん泣かせることになっちゃったんだ」


「泣かせるつもりは無かったけど泣かせたのは事実だから、ごめんなさい」


俺が頭を下げて、もう一度謝罪する。

すると……。


「……僕もごめんなさい。急に蹴ったりして」


隼人君が謝ってくれた。

……ちゃんと謝れるじゃん、偉いぞ。

子供の成長を見つめる親ってこんな感じなのだろうか。

ちょっとじーんと来る。


隼人君が頭を下げたのを見て、西堀さんが隼人君に駆け寄り、偉いぞって頭を撫でて誉める。

良い顔してるなぁ、隼人君。


「隼人も謝れたみたいだし、そろそろおいとましますか」


おいとまってあんま聞かないな、なんて思っていると、


「姉貴、有村さん達と行けよ。隼人と適当に時間潰して帰るからさ」


そう集君が提言する。


「でも……」


「たまには甘えろよ。俺も隼人と二人で遊びたいし」


集君が「なー」というと隼人君も合わせて「なー」と言う。

良い子達だねぇ……。

西堀家、まじ推せる。


「……じゃあ、お言葉に甘えようかな。ありがとうね。集、隼人。何かあったら必ず電話してね」


はいはいと言いながら、集君は歩き出す。

隼人君はバイバイと手を振って挨拶すると、集君について行った。


二人を見送り、ようやく今日の本題である、恋へのプレゼント選びがスタートした。

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