第40話 初恋の行方
「では、インタビューしてみましょう。えー、あなたはキスしたい人を連れてきた訳ですが、それは好きってことですか?」
「……はい。私は彼の事が好きです」
「それはいつぐらいからですか?」
「球技大会の頃からです。私、サッカーが苦手で、練習でミスばっかりして、他の子に八つ当たりして、逃げました。彼はそんな私を探しにきてくれて、
西堀さんが話す度にオーディエンスが盛り上がる。
ちょいちょいヒューヒューだとか青春だねぇとかおじさんみたいなヤジも聞こえる。
「でも私、本番でもミスして、失点しちゃって……。そしたら彼が取り返してくるからって言って本当に得点を取ってきてくれたんです。しかも、怪我しながら。そこで完全に彼の事を好きなんだなって自覚しました」
「男やるやん」
「少女漫画みたい」
「青春だねぇ」
これ恥ずかしすぎない?
後、青春だねぇおじさんどっか行ってくれ。
保健室の時は勘違いだと思ってたけど、西堀さん、本当に好きだったんだ……。
「さて、それでは彼の方にも聞いてみましょう。告白された感想をどうぞ」
「……素直に嬉しいです」
また盛り上がるオーディエンス。
付き合えコールまで始まった。
「すみませんが時間の都合上1位のインタビューはここまでということで、2位のペアに移ります」
ブーイングが起こるが恋は上手く流していた。
ありがとう、恋。
これ以上続けられていたら、多分かなり困った展開になってた。
あのまま行けば、僕は大勢の前で西堀さんを振っていた。
恐らく大ブーイングを浴びることになっていただろう。
別に僕はブーイングを浴びても構わないのだが西堀さんを出来るだけ傷つけたくなかった。
こんな大勢の前で公開処刑のような振り方はしたくなかった。
でも、遅かれ早かれ僕は西堀さんを傷つけてしまう。
その事は確定している。
西堀さんの好意はすごく嬉しい、勉強が出来て、がんばり屋さんで、責任感が強くて、かわいい。
僕には勿体無いくらいの女の子。
でも、僕は西堀さんの思いには応えられない。
僕は明日香の事が好きだから。
この気持ちは揺らがない。
強い意思を持ち、僕はスタート地点へ戻ろうとする。
その瞬間、後ろから抱き締められる。
西堀さんだ。
「……西堀さん。俺」
「分かってるよ。言わなくて良い。全部分かってるから……」
背中に冷たい物がつたう。
「私を助けてくれてありがとう。私に付いてきてくれてありがとう。私に初恋をくれて、ありが……とう」
背中につたう範囲が広がる。
本当にごめんね……西堀さん……。
「有村君、これからも友達でいて……くれますか?」
「……もちろんだよ」
すると西堀さんが抱きつくのをやめ、離れる。
「じゃあ友達として言うね……頑張って!」
にっこり笑う西堀さん。
顔には涙の跡がくっきり残っている。
「おう!」
僕もにっこり笑って返事をし、スタート地点へ駆け出した――。
※※
彼の背中がどんどん遠くなっていく。
「やっぱりダメだったかぁ……」
私の初恋は失恋という形で幕を閉じた。
こうなるって分かってたんだけどね。
分かってたのに……なぁ……。
再び涙が頬をつたう。
私ってこんなに泣き虫だったっけ。
止めたくても止まらない。
「私、有村君の事、思ってる以上に大好きだったんだ」
心にぽっかり穴が空き、改めて彼の存在の大きさを知る。
良かった、テスト明けで。
このままテストとかあったら、首位陥落していた。
当分立ち直れそうにないし……。
彼がスタート地点に着き、彼女と話している。
彼女は笑顔で嬉しそうにしているのに対して、彼は少し辛そうにしていた。
ごめんね。
有村君、そんな顔をさせて。
すると彼女がこちらに手を振っている。
相変わらず人の気持ちが分からない子だ。
そんなところをひっくるめて、私は彼女の事も好きだけど。
涙をぬぐい、私も手を振り返す。
「おめでとう……高憧さん」
私はそう呟き、くるりと方向転換して誰もいない1位旗が立てられた場所へ向かう。
多分私はこの初恋を忘れない。
手を握って、抱きついて、キスまで出来たんだ。
ほとんどの人が実らない初恋。
その思い出としては十分だろう。
もうすぐ正午だ。
日差しがきつくなってきた。
みんなは嫌がるだろうが今の私には嬉しい日差し、涙で濡れた箇所がすぐ乾く。
泣いてることが分かったら、みんなに心配かけちゃうしね。
……でも、少しみんなに慰めて欲しいかもなぁ。
乾ききったグラウンドに1滴2滴と雫が落ちる。
初夏の青空の下、少女の初恋は儚く散った。
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