第38話 上手くやるだけ

「どんどん決めてくぞ。やりたい人は挙手なー」


恋と弦本さんが前に立ち、競技の参加希望者をつのり、僕と明日香は挙手した参加希望者を黒板に書いていく。


「じゃあ次、借り人競争なー。定員3人だけどやる奴いるかー」


借り人競争って3人しか出れないんだ……。

参加できるのだろうか。

とりあえず手を上げる。

すると明日香や西堀さん、他4.5人の男子が手を上げた。

やっぱそうなるよねぇ……。


「ちなみに借り人競争はゴールした時にインタビューあるし、今年の借り人競争担当は俺だからな。お題も"あれ"なものにするし、インタビューもねちねち聞くからよろしくな。特に男子、分かってるよな」


うわー、悪そうな笑顔。

恋と友達じゃなかったら僕も参加取り消すよ……。

僕以外の男子がみんなで挙げた手を下げ、僕と明日香と西堀さんが残った。

定員3人ぴったりだ。

よし、まずは第一関門クリア。

次はお題だ――。


「エビデンが分かるように、そのお題に目印つけておけばいいんじゃね」


「でも、それだと他の人が取ったら終わりじゃない?」


「確かに……」


「一ヶ所に同じお題を置いておくのは?」


「ダメなんだよ、それ。原則として同じお題を置くのは禁止って三年生から言われてるんよなぁ」


帰り道、お題について、僕と恋であーだこーだ意見を述べるが、上手い打開策が出てこない。

どうしたものか。

ちなみに明日香には男子の競技について話し合うって言って先に帰って貰った。

聞かれてたらこの計画の意味なくなっちゃうしね。


「同じじゃないけど同じような意味のお題を固めて一ヶ所に置けばいいんじゃない」


突然、恋以外の声がして驚く。

聞き慣れた声だ。


「おお、福ちゃん。聞いてたのか」


「今のところだけね。例の件の事でしょ?」


福だ。

サッカー部の練習はどうしたんだろう?


「福、部活どうしたの?」


「仮病使って休んできた。アリソンの一大事だろ。俺も助けになりたいし」


福ぅ……。

イケメンでスポーツ出来て、成績も上位でこの性格。

僕が女子なら恋に落ちてる。

でも、恋のパッと見ヤンキーなのに中身は義理堅くて優しいギャップも好き。

乙女ゲームってこんな感じなんだろうか……。

いかんいかん、新たな扉が開くところだった。

話を戻そう。


「ありがとう、福。ちなみに同じような意味の言葉って例えば?」


「うーん、そうだなぁ。あなたが偉大だと思う人っていうお題があるとしたらあなたが尊敬している人みたいな感じで大まかには一緒かもしれないけど、実際はちょっと違うでしょ?そういう、お題を一ヶ所に固めたら、いいんじゃないかなって」


「ありだな……。三年生も入学したばかりの一年生が必死に書いたお題なら、大目に見てくれるだろうしな。俺が演技で必死さをアピールしてやるよ」


また悪い笑顔してるなぁ恋……。

でも、確かにこれなら行ける気がする。

これで第二関門を突破。

最後は僕が上手くやるだけだ……。


「アリソン頑張れよ!俺も応援してるから」


「俺もアシスト出来るのはここまでだからな、後は頑張れよエビデン!」


二人に背中をパンッと叩かれ気合いを入れられる。

恋、福……ありがとう。

絶対に成功させてみせる。


――我が家に帰り、ただいまと言う。

ん?

いつもは聞こえてくる、明日香のお帰りが無い。

どうしたんだろうと思ってリビングに入ると、明日香がスマホで誰かと会話してるようだった。


「うん、わかった。お弁当よろしくね。じゃあねー。あ、お帰り優」


「ただいま。今の電話は仁さん?」


「そうだよ。よく分かったね。体育祭、お姉ちゃんと一緒に見に来るってさ」


まぁお弁当って言ってたらね……。

仁さんしか浮かばなかった。

てか、仁さんと未来さん見に来るのか……。

ちょっと恥ずかしい。


「私、初めての体育祭だからね。絶対勝つぞー!」


小学生みたいな気合いの入り方だ。

ここまで純粋に体育祭を楽しみにしている高校生、なかなか居ないんじゃないだろうか。

かわいい奴め。


「あ、そういえば、話し合いどうだったの?男子の競技についてだっけ」


ぎくぅ……。


「あーうん。なんとか解決したよ」


「なんで目が泳いでるのかな?白状しろー」


やばい、隠すの下手すぎだろ僕。

徐々に圧を強める明日香。


「ごめん。今は言えない。そのうち分かるからさ」


「……そっか。ついに優も隠し事するようになったかぁ。家で男の人の帰りを1人で待つ女性ってこんな気分なのかな」


そんなしょんぼりした顔で俺が浮気したみたいな雰囲気出さないでよ……。

違う違う、上司の飲み会に付き合わされてさぁとか言いそうになる。


「明日香。俺を信じて」


「信じてるよ。最初から」


しょんぼり顔が一転、にひひと笑い小悪魔になる。

本当にこの子は……。

絶対に喜ばせてやるからな、覚悟しておけ!


――そうして体育祭当日を迎えた。

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