第37話 恋の恩返し

教室からテストの結果が貼り出されている場所へ向かう。


「大丈夫だ。手応えはあった」


恋は結構自信がありそうだ。

そうだよね。

みんなであんなに頑張ったし、恐らく大丈夫だろう。


貼られている場所には人だかりが出来ており、学生が一喜一憂している。

……なんか緊張してきたな。

上位から見るのはやめよう。

僕も恋も半分より上であれば良いんだ。

真ん中から見ていこう。

1クラス36人編成が6つあるので216人中の順位となる。

半分だから108位からだ。


………………なかなか自分の名前が出てこない。

ていうか、勉強会したメンバー誰も出てこないんだけど!?

後、上位30人しかいないんだけど……。

すると恋が俯いてこちらに向かってくる。


「……エビデン」


その様子だと……いや、分かんねぇなこれ、顔見えないし。

恋にガシッと肩を掴まれ、恋が顔を上げる。

うわぁ、すっごい良い笑顔。


「っとにサンキューな!15位だったわ!俺こんな順位なったことねぇぞ」


……良かったねぇ。

恋の頑張り、努力が報われて本当に良かった。


「にしてもお前らすげぇな」


「え?」


「え?ってまだ順位見てねぇのかよ上位から見てみろよ」


1位 西堀絢香


西堀さん!

ていうか絢香っていう名前なんだ。

そういえば絢ちゃんって呼ばれてたな……。

辺りを見回して西堀さんを探す。


僕らよりも後ろの方にいた。

貼り出された順位を見て、安心しているようだ。

すると西堀さんがこちらに気づき、控え目にピースサインを送ってきた。


おめでとう、西堀さん。

宣言通りに首位取るなんて、本当にすごい。

僕は西堀さんに向かって、にっこり微笑んで頷く。


ん?

なにやら西堀さんが口を動かして、何かを伝えようとしている。


お・め・で・と・う

おめでとう?

いやそれはこっちの台詞……。

まさか……。

振り向いてもう一度順位を見てみる。


2位 有村優


……まじで?

いや、思ったより解けたなぁって感じしたけど2位。

2位!?

ようやく実感が湧いてきた。

1年生で2番目ってことだよね?

え、すごくない?

やるじゃん僕。


「おめでとう、優。私達仲良しだね」


「ありが……え、仲良し?」


3位 高憧明日香


えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

明日香が3位!?

勉強してる時、恋より分からないところの質問が多かったのに!?


「あ、明日香って頭良かったっけ?」


「すっごい失礼な質問だね!?まぁあんまり勉強はしてこなかったし、今回が初めてまともにやったかも、みんなと勉強してすごく楽しかった」


そうだった……。

明日香が学校に来れるようになったのって中学2年からだった。


「ごめん……」


「謝んないでよ。2位と3位だよ?隣同士で私は嬉しいよ」


ていうかまともに勉強したのが初めてで3位ってめちゃくちゃすごくない?

スポーツだけじゃなくて、勉強も学習能力高いって、文武両道すぎる。


「エビデン。まじで埋め合わせさせてくれ。いや、埋め合わせじゃねぇな、恩返しさせてくれ。なんでもいいぞ」


「いいよしなくて。俺も恋に勉強教えたおかげでこの順位になれたし、球技大会の時、恋のおかげでクラスのみんなとも和解できたし」


「いや、俺の気が済まねぇ。なんでもいいからさ、思いついたら言ってくれよ」


「分かったよ。考えておくね」


押しきられてしまった。

本当になにもしなくて良いんだけどなぁ。


ちなみに福は26位で弦本さんは130位だった。

福もかなり喜んでいたが、弦本さんはもっと喜んでいて、恋とハイタッチしていた。

今までどんだけ酷かったんだろう……。


――とりあえずこれでしばらくは大きなイベントも無いし、ゆっくり出来そうだ。

みんなで遊び行ったりしようかなと授業時間中に考えていると


「もうすぐ体育祭の季節ということで今日は参加する競技を決める。1人最低でも1競技は出るように」


は?

球技大会やったばっかなのに?


「今までは秋に開催していたが去年の秋は暑くてな、熱中症防止のため今年は6月に開催することになった」


だから先生、エスパーすぎません。

こっち向いて言う辺り、なおさらエスパーって感じする。


「じゃあ種目書いていくから参加競技決めてな」


そう言うと先生は体育祭の種目を書いていく。

100m走、リレー、綱引き、玉入れ、パン食い競争、借り人競争……。

借り人競争?


「ねぇ、恋。借り人競争って何?借り物じゃないの」


「おお、あれ俺が担当の競技なんだ。名前の通り、物を借りるんじゃなくてお題の人を借りてくるんだ」


へぇーなんか面白そう。

そういや恋って体育祭実行委員だった。


「ゴールした時に走者と走者が借りてきた人にインタビューしなきゃいけないのが少し面倒だけどな」


うわ、インタビューあんの。

ちょっと嫌だなぁ。

…………あれ、でもこれチャンスじゃない?


「ちなみに恋、このお題って……ベタなやつもあるの?」


恋は一瞬考えたが察してくれたらしい。


「……そりゃあるだろ、ていうか多めに入ってると思うぜ。お約束ってやつよ」


ならば、なおさらチャンスだ。


「恋、お願いしたいことあるんだけど」


そうして恋の耳元で僕はプランを言う。


「……本気か、エビデン?ついにやるのか」


僕はうんと頷く。


「じゃあ任せろ、俺がしっかりお膳立てしてやるよ」


心強い。

ありがとう恋。


「それじゃ、後は体育祭実行委員頼んだよ。クラス委員も手伝ってあげて」


先生が黒板に種目を書き終え、恋と弦本さん、僕と明日香が呼ばれる。


「よし行くか。まずはエビデンを借り人競争の走者にしないとな」


こうして恋の埋め合わせ、もとい恋の恩返しが始まった。



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