第36話 背負う理由

我が家のリビングでは現在みんなが黙々食事をしている。

時よりカツカツと食器にスプーンが当たる音だけがリビングに響いている。


みんなチャーハン食べ出してから喋らなくなった。

ご飯食べるときは喋るべきじゃないんだけど、友達同士で、しかも家で食べるなら少し位は喋るものなんじゃないだろうか?

料理作った本人からしてみればここまでの沈黙は不安しかないんだけど……。


「……エビデン」 


恋が食べ終わり、僕に話しかける。

どうだったんだろう……。


「お前はいい嫁になれるぞ」


嫁!?

婿じゃなくて!?

なんでみんなもうんうん頷いてるの!?


「ここまでお掃除や整理整頓が出来ていて、その上、料理まで上手だったら、私の存在ってなんなんでしょう……女子としての自信がなくなります……」


弦本さんがすごいネガティブになってる。

ていうか明日香、その後方彼氏面腕組みオタクみたいなの辞めなさい。


でもみんなが喜んでくれてるみたいで良かった。

ほっと胸を撫で下ろす。


「そろそろ勉強再開しよっか」


「あー、エビデン。勉強会で場所借りといてなんだけど、ちょっと勉強飽きてきたからよ……ゲームとかどうよ」


恋が気にしていた英語もだんだん良くなってきたから余裕が出てきたのだろう。

朝からずっと勉強してたし、少し位ならいっか。


「俺はいいけど、みんな大丈夫?」


再びうんうん頷くみんな。

みんな息抜きしたかったのねと思った瞬間。


「あー、ごめん。私、もう少しだけ勉強させて、みんなはゲームしてて良いから」


西堀さんが申し訳なさそうに言う。


「おー、分かった分かった。勉強飽きたら西堀も参加してくれ。じゃあ始めようぜ」


さすが恋。

これでもし沈黙してたら明らかに空気が悪くなってた。

すかさず返したことで空気を悪くせずにすんだ。

にしても西堀さん、あんなに頭良いのにまだ勉強するのか。

ストイックだなぁと思う。


「お、おっさんとキノコと姫達がカートで競う奴あんじゃん。これやろうぜ」


こうして西堀さんを除く5人でレーシング大会が始まった――。


「かぁー、エビデン強すぎだろ。これで3連勝だぞ。1回抜けろ」


僕のゲームだし、やり込んでるからなぁ。

ふっ、格の違いを見せつけてしまった。


ソファーに座り、りんごジュースを飲み、辺りを見回す。

明日香は画面にあわせて体ごと左右に動いてる。

気持ちは分かる。

なんで動いちゃうんだろうね、あれ。

みんなが楽しそうにゲームをしている一方で西堀さんは黙々と勉強をしていた。

さっきの事謝らないと……。

僕はコップを置き、西堀さんの元へ向かう。


すごい集中力だ。

隣に来ても全然気づかない。

邪魔するのも悪いし、キリの良いところで声をかけよう。

とりあえず横に座って、その時が来るまで様子を伺う。


西堀さんが問題を解き終え、シャーペンを置いた。

今だ!


「西堀さん」


「ひゃ、ひゃい!有村君!?いつからいたの」


ちょっと噛んだな、かわいい。

びっくりさせちゃったかな。


「ごめんびっくりさせて、ちょっと前からいたけど、西堀さん集中してたから」


「気づかなくてごめんね。私、一つの事に没頭しちゃうから……どうかしたの?」


「さっきの事謝りたくて、ほら、その……2階でのこと……本当にごめん」


「え……あ、あぁ、全然気にしてないよ。あれは私が間違えたのが悪いんだし、事故だよ。だから謝らないで」


西堀さん、優しい……。

手とかガッツリ握って、壁ドンしたのに……。


「ありがとう。そう言って貰えると助かるよ」


にっこりして、西堀さんは他の教科の問題集を取り出す。

まだ勉強するんだ……。


「西堀さん、まだ勉強するの?みんなより勉強出来てると思うんだけど」


「あー、学年首位狙ってるからね」


首位!?


「私の家ね。あんまり裕福じゃないんだ。この学校って学年で一番成績良い人は学費免除になるからさ。弟達もいるし、私が頑張らないと……ってなんで泣いてるの有村君!?」


偉い……偉すぎるよ西堀さん……。

西堀さんが責任を背負いすぎる背景が分かった気がする。

私がお姉ちゃんなんだから、私がなんとかしないとっていう考え方でずっといたら、そりゃ責任感強くなるよ……。


「もしかして、弟さん達に勉強教えたりしてる?」


「そうだよ。勉強頑張って僕らも学費免除にするって言ってる。私さえ免除になれば良いから、そんなに頑張らなくて良いって言ってるんだけどね」


やっぱりなぁ……西堀さんの勉強の教え方上手いもん。

弟さん達に教えてたからなんだ。

ていうかそんなかっこいいお姉ちゃんの姿見てれば弟達も僕も頑張らなきゃってなるよなぁ……。

頑張れ西堀さんの弟さん達。

お兄さんも応援してるぞ!


僕も勉強しよう。

そう思って、勉強道具を持ってきて西堀さんの隣に座り直す。


「有村君はゲームしてていいんだよ?」


「なんか西堀さん見てたら俺も頑張ろうと思えてさ」


「そっか」


ふふっと笑って、勉強を再開する西堀さん。

すると恋達もテーブルに着いて、勉強を始める。


「どうしたの恋?」


「お前らが真面目に勉強してるの見たら、俺らもやらきゃって思ってよ」


本当に恋はパッと見、不良ぽいのに中身が良い子。

好きにならざる終えない。


「テスト頑張ろうね」


「おう」


――そしてテストの結果が出る日を迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る