第33話 恋のピンチ

「だんだんアザ無くなってきたね」


明日香が僕の背中に湿布を貼りながら、そう言う。

ショッピングモールでのデートから2週間が経ち、僕の背中の痛みもほとんど取れてきた。

初めて明日香に湿布を貼って貰った時、背中に大アザが出来ていることがわかり、結構酷い打ち身だったんだと知った。

道理どうりで痛いわけだよ……。


それからはお風呂上がりにこうして明日香が僕の背中に湿布を貼ってくれるようになった。

最初は恥ずかしかったが段々と慣れてきて、今では普通に上裸で明日香にお願いしますと言って、ソファーに寝転んでいる。


「明日香のおかげだよ。ありがとう」


「どういたしまして。でも私、湿布貼ってるだけなんだけどね」


十分ありがたいんだけどな。

普段なら届かない場所ではないが無理に貼ろうとすると背中痛いし、なにより正確に貼れない。

僕一人だったら、自然治癒を待つだけになっていたかもしれない。

明日香がいてくれて本当に良かった。


「そういえば、優。前よりも筋肉ついたよね。この辺とかさ」


スッーと僕の肩甲骨辺りを指でなぞる明日香。

や、やめて……くすぐったい。

筋トレはちゃんと継続していた。

心なしか自分でも少し引き締まった気がしていたので自分以外からそう言われるのは嬉しい。


「男らしくなってて私は嬉しいよ。このまま行くとお父さんみたいな体になるかもね」


流石に仁さんレベルはきついなぁ……。

もっと筋肉に関する知識とか無いとあのレベルには到達しない気がする。


「でも、ちょっと心配だなぁ」


「なにが?」


「優、最近クラスのみんなと仲良いし、女子からも人気出てきてるんだよ」


そうなの!?

球技大会以降、男子からはよく声をかけられるようになったけど、女子からはほとんど無い。

全然実感ないけどな……。


「優がみんなから認められてるのは私も嬉しいけど、なんかちょっと複雑だなぁって」


僕が明日香の告白を受け入れていれば、明日香に告白できていれば、こんな思いをさせなくて済むのだが……本当に申し訳ない……。


「俺は明日香のことしか見てないから、何があっても一番好きなのは明日香だから信じていて欲しい」


もう少し、もう少しで自分に自信が持てそうだから……。

だから信じて待っていて欲しい。


「一番ってことは二番の人もいるってこと?あーあ、そっかそっか、優も男の子だもんね……他の女の子に目移りもするよね……」


悲しそうに明日香が俯く……。


「ち、ちがうよ!他に女の子とかいないし、俺には明日香しかいないから!」


「冗談だよ」


焦る僕を尻目に、にへへと笑う明日香。

心臓に悪いからやめてよ……。


「信じてるから、優のこと」


ハートをぎゅっと掴まれる感覚。

にへへからのマジトーンで信じてるからはずるいよ。

緩急すごいもん。

プロ野球選手でもストライクだよ。


でも、明日香のためにも早く告白しなければいけない。

次にきっかけやイベントがあれば告白……しよう。

心の中でそう決めた――。


「エビデーン、勉強教えてくれぇー」


次の日学校へ行き、教室に入った瞬間、恋が泣きついてきた。


「どうしたの?恋ってそんなに勉強できない訳じゃないよね」


「普通くらいにしか出来ねぇよぉ。奨学金継続のためにも来週の定期テストで半分より上に入らねぇとまずいんだ」


恋もこの学校の奨学金制度使ってたんだ。

うちの学校では収入があまり無い家庭で成績が半分より上だと奨学金制度が使える。

僕もその制度と家の近さに惹かれてこの学校に入学したようなものなので助けてあげたい。

しかも、僕をクラスの輪に入れるきっかけをくれ、親友の恋ならなおさらだ。


「いいよ、恋。俺が教えられる範囲であれば」


「ありがとうよぅ。エビデン」


口調がいつもと変わるくらいに追い詰められてるんだろう。

頑張って恋を助けよう……と気合いを入れて放課後に図書館へと来たのだが……。


「どうしてこうなってる?」


僕の前には恋……だけでなく明日香に福、弦本さんまで!?

全員に勉強教えるのこれ……。

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