第32話 似る二人

ご飯を食べ終え、再びショッピングモールをぶらつく。

洋服店、靴店、書店、CDショップ、100円ショップ、スポーツ用品店。

休憩をいれながら色々な店舗を回る。

楽しいが流石に疲れてきた。

そろそろ食料品買って帰ろうかな……と思った時、明日香が立ち止まり、目を輝かせる。


「優、あれとって!」

 

明日香が指を指したのはゲームセンターにあるUFOキャッチャー。

景品は……片耳が取れてるクマのぬいぐるみ。

なにこの可哀想なキャラクター……。


「あれはクマのペコリンだよ。片耳が無いのは山に食べ物が無くなって、食べるものが無くなったから自分の耳を千切って、食べて、飢えをしのいだっていう設定なんだ」


むごすぎる……。

子供が泣きそうな設定だ。


「私、ペコリン大好きなんだけど、優取れないかな?」


「やってみるよ」


男としてカッコつけたいし、UFOキャッチャーは割と得意としているので自信はあった。

お金を一定金額まで入れるとアームが強くなる確率機でもないし、単純に実力勝負の筐体だ。

やってやろうじゃないか、そう意気込んで100円を入れた。


まずは様子見で普通に持ってみる。

アームはぬいぐるみを持とうとするが撫でるだけですり抜ける。

こりゃ握力0みたいなアームだ。

かなり厳しい。


「これどうやって取るの?UFOキャッチャーってこんなに難しいんだ。優、辞めてもいいよ。私別に要らないからさ……」


言葉とは裏腹にしょんぼりしている明日香。

こんな顔見せられちゃね……。

僕は筐体に500円を入れ、自分にも気合いを入れる。

今度はタグを狙ってみよう。

アームが弱くても、あの狭いタグの輪っかに入れれば、多少は動くはずだ。


アームがタグに向かって一直線に降下するが、惜しくも輪っかには入らず失敗。


多少調整し、次はちゃんとタグに入れることが出来た。


「優、上手!これでいけー!」


しかし、多少動いただけでアームはタグから外れてしまう。

ああぁと落胆する明日香。

しかし、僕は希望が見えていた。


「明日香、大丈夫取れるよ」


その後、アームをタグに入れ続け、少しずつ位置を前にずらし、迎えたラスト1回。

ぬいぐるみは横になり、半身が手前に出ている状態になっていた。


ボタンを押しアームの位置を調整する。

ここだ!

アームが降下して、手前側にある耳を押す。

ぬいぐるみは頭の方が重い。

半身出た状態で頭側のバランスをさらに崩してやれば……。

するとぬいぐるみは思惑通り、獲得口に落ち、僕はそれを取り出して、明日香に渡す。


明日香はぬいぐるみを小さい子供のように大切そうにぎゅっと抱き締めた。


「ありがとう、優。大切にするね」


そんなに嬉しく思ってくれるならこっちとしても頑張った甲斐があったと思える。


「どういたしまして」


にしても意外と明日香も女の子らしいところあるんだなぁ……。

メンタルお化け、大食い、スポーツ万能の印象が強いだけにギャップがあるというか……。

そういえば明日香、ベッドの上にぬいぐるみ置いてたし、割とぬいぐるみ好きなタイプなのかもしれない。

このペコリンもベッドに置いて一緒に寝てくれるんだろうか。


……なんかペコリン羨ましくなってきた。

おい、ペコリンそこ変われ。


――食料品の買い物を終え、帰路に就く。

改札を出て、銅像前で別れると、時間差を作って我が家に戻る。


「ただいま」


「お帰りー、優」


今まで一緒に帰ってきてたから、お帰りって言われるの新鮮。

新婚さん擬似体験の気分。


「なんか優の奥さんになったみたいだね……」


照れながら言わないでよ……。

こっちも照れちゃう。


「ご飯!ご飯作ろう。お茶碗も買ったことだし」


また、にやにやする明日香。

なんでなんだろう……。


そう思いながらも今日の夕飯の準備に取りかかる――。


「お待たせー出来たよ明日香」


「わぁーい。今日はお魚のムニエルだ」


ご飯を買ってきたお茶碗によそう。

大きい青は明日香で小さい赤は僕にした。


ご飯とお味噌汁をテーブルに持っていき、明日香の前に置く。


「……ちょっと優。ここに座って」


なんか空気が変わった。

あれ、明日香怒ってる?

とりあえず言われた通り座る。


「優、今日買ったお茶碗何て言うか分かる?」


頭にハテナが浮かぶ。

あれ名前とかあったの。


「ちょっとレシート見てみて」


そう言われて日常雑貨店のレシートを持ってくる。

えーと、どれどれ。

……夫婦茶碗?


「ふうふちゃわん?」


「めおとちゃわんっていうの」


あー、これがめおとちゃわんか、聞いたことはあったが夫婦って書いてめおとなんだ。

ん?

じゃあ僕、それを買おうって明日香に言ってたの?

それってプロポーズみたいなもんじゃない?

だから明日香はにやにやしてたのか……。


「普通は旦那さんが大きいやつで奥さんが小さいやつなんだけど、さて優君、なんで私の前に大きい方があるのかな?」


すっごい怖い笑顔。

だっていっぱい食べるからなんて言ったら大変なことになりそう。


「え、えーと。勉強不足でした。道徳の教科書読み直します」


「よろしい。じゃあ食べよっか。いただきます」


良かった。

何とか乗り切った。

ていうか結局大きい方で食べるんかい。

女の子はよく分からない生き物だ……。


明日香が割り箸を割ろうとしたところであることを思い出す。


「あ、待って、明日香」


僕は今日買ってきた物の中からあるものを取り出す。


「はい、これ。よければ使って」


明日香に渡したのは箸。

赤色ベースにデザインは僕の箸に似たやつを買った。


「明日香の箸、ずっと無くて割り箸だったからさ」


「……ありがとう、優。すごく嬉しい!青いお茶碗に赤い箸って良いね。優は赤いお茶碗に青い箸だし、さてはこれを狙ってわざと大きい方を私にしたんだな、策士だなぁ優」


一気に上機嫌になる明日香。

全然狙ってないんですけどね。

まぁ明日香が喜んでるならいっか。

改めて女の子って本当によく分からない生き物だ。


「私も優にプレゼントあるんだ。これ」


明日香がリュックの中から何かを取り出した。


「優、今日も背中痛がってたからさ、後で貼ってあげるね」


渡されたものは湿布。

銅像のところで見られていたのか……。


「ありがとう。助かるよ。でも、いつ買ったの?」


「実はハンバーガー食べる前に買ってたの」


あのメッセージ送ってきた時か。

ということはお互いのためにほぼ同タイミングで箸と湿布を買ってたんだ。

なんか考え方が似てきていて嬉しい。


「ご飯冷めちゃうし、食べよ、優」


そうだねと返して僕もいただきますと言う。


二回目のデートはただのショッピングデート。でも、二人の考え方が似てきていることを証明したデートだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る