第30話 2度目のデート

昨日に引き続き、本日も快晴。

暖かな陽気と丁度良い強さの風が時々鼻をくすぐる。


僕は駅構内の銅像の前で明日香を待っていた。

何故待ち合わせなんかしてるのかと言うと、我が家は学校からそれなりに近い。

もし、一緒に出てくるところを学校の人達に見られると同棲がバレてしまう。


制服を着た状態なら、登校時は一緒に学校に行くのに迎えに来たと思わせることが出来るし、

下校時は学校が終わって家で遊ぶとか誤魔化すことが出来るが私服で家から一緒に出たり、入ったりするのは流石にまずい。

1.2回ならまだしも、複数回となると確実怪しまれるだろう。


そういうこともあって、出る時間をずらし、こうやって駅構内の銅像前で待ち合わせをしている。


にしてもこういう、忠犬なんちゃらって感じの犬の銅像ってどこでもあるよなぁ。

しかも大体モデルは柴犬だし、おかげで柴犬イコール忠犬のイメージが強い。

忠犬チワワの銅像とか見たこと無い。


そんな事を考えながら、銅像に寄りかかる。

その瞬間、背中に痛みが走り、思わず顔が歪む。

バカなんだろうか、何回同じような事をしてるのだろう。


骨が折れてる感じはしないが昨日の風呂上がりに鏡に映して見てみたところ、背中には大きなアザが出来ており、体を捻ったり、何かが背中に当たるとかなり痛む。

今日のデートはショッピングモールに行くだけなので特に問題はないと思うが……。


「お待たせ!優。久しぶりだね」


にやにやしながら明日香が来た。

うん、15分ぶりだね。


「じゃあ、早速行こっか」


僕は明日香の手を掴み、握る。


「……うん。行こ!」


なんか今、自然と明日香の手を握った気がする。

慣れって怖い。

そう思いながら僕達は改札を抜けていった。


――電車に揺られて約10分。

目的地近くの駅に到着した。

ここからは歩いてショッピングモールに向かう。


「そういえば、なんでショッピングモールでデートなの?」


「この前お茶碗欠けちゃったし、冷凍食品とかもそろそろ無くなってきたから補充しようかなって、ショッピングモールなら一ヶ所で全部終わるし、休むところもいっぱいあるしね」


「なんか優、主夫みたいだね。でも、ちゃんと私の身体の事、気遣っててくれて嬉しいぞ。誉めて遣わす」 


明日香がえっへんと胸を張る。


「ははっ、ありがたき幸せ」


僕は背中が痛まない程度にペコリとお辞儀をし、ゆっくり片目を開けて明日香を見る。


少し間を置いて、二人で笑いだす。


「私達、道の真ん中で何やってるんだろ。これじゃバカップルだね」


だねと笑いながら同意する。


こういうバカップルと思われる行為ははたから見ると、鬱陶うっとうしいし、こんなのやってて何が楽しいんだかと思う。

僕もそう思っていた。

だが、いざ自分の立場になると180°考え方が変わった。

楽しい!

バカップル最高!

バカップルは幸せなことの証明なんだなぁとしみじみと思う。


そんなやり取りをしながら歩いていると、目的地に到着した。


「こんなに広いんだ。そもそもこれ全部お店なの!?すごいね、優」


「目的のお店探しながら、一店舗一店舗見ていこうか」


「うん、行こ行こー!」


――わいわいきゃっきゃっしながら二人でショッピングモールを回る。


僕も初めてのことが人より多いけど、明日香は入院期間が長かったからか、僕以上に初めてのことが多い。


どの店舗を見ても、なにあれ面白そうって感じで入っていく。

好奇心旺盛だ。


二人で初めての事を一緒に体験していくのは悪くない。

むしろどんどん体験して、明日香との思い出を作っていきたい。


そうこうしてると、食器から家具等が揃う、日常雑貨店に着いた。


「このお店なんでもあるね。見て!ベッドとかもあるよ。すっごいふかふか、優も寝てみて」


そう言われて僕も明日香の隣に横になる。

あぁ……すっごい……。

体が包み込まれるみたい。


「ふふ、幸せそうだね、優」 


声の方向を見ると明日香がこっちを向いて笑っている。

日常雑貨店の売り物のベッドの上で男女同士見つめうって、周りからしたらこれもまあまあバカップルの行為って感じがする。


「ママー、あのカップルなにしてるの?」

「こら!人に向かって指差しちゃ駄目でしょ。邪魔しないの」


お母さんの方がごめんなさいねって感じでお辞儀をして立ち去る。

なんか恥ずかしくなってきた。


「カップルだって……やっぱそう見えるのかな。なんだか照れちゃうね」


恥ずかしさに耐えきれなくなって起き上がる。


「お茶碗見に行こ、明日香」


明日香に向かって手を差し出す。


「ふふっ。そうだね。お茶碗見に行こっか」


明日香は僕の手を握り、僕たちは食器のコーナーへ向かった。

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