第29話 ○○になってください!
目を開けるとぼやけた視界から天井のようなものが見える。
どこだろ、ここ。
辺りを見回そうと動こうとした瞬間、背中に痛みが走った。
そういえばオーバーヘッドをしてそのまま落ちたんだっけ。
よくできたよなぁ……もう一度やってと言われても成功できる気がしない。
どうやったかあんま覚えてないし。
痛みに堪えながら少しずつ、ゆっくり起き上がる。
自分がベッドの上にいて、カーテンに囲まれている状況から察して、保健室だということはわかった。
ていうか球技大会はどうなったのだろうか。
恐らく1-Aには勝ったはず……。
ということは今頃、決勝だろうか。
プレーは厳しいけど見に行ってみんなを応援したい。
そう思って、ベッドから降りようとした時、ガラガラと扉が開いた。
「大丈夫?高憧さん」
「……大丈夫だよ、西堀さん。少し休めば治るから」
西堀さんと明日香が入ってきたようだ。
明日香に何かあったのだろうか。
いてもたってもいられなくなり、勢いよくカーテンを開ける。
「いっ、つっぅー」
背中負傷してたの忘れてた。
さっきまでゆっくり起き上がったりしてたのに……。
「有村君!?大丈夫?まだ寝てないと」
西堀さんが肩を貸して、支えてくれる。
「ありがとう西堀さん。大丈夫、支えなくていいよ。一瞬痛みが走っただけだから」
「だめ、怪我人は大人しく保健委員に従いなさい。ほら、もう少しだけ横になってて」
そう言って、西堀さんは僕をベッドに寝せ、カーテンを閉める。
西堀さん、保健委員だったんだ。
寝せるのは分かるけど、なんでカーテン閉めてるの?
疑問に思っていると、西堀さんがふぅと息をつき、僕の耳元に近づく。
「有村君」
西堀さんのASMR!?
体がびくんと反応しちゃう。
反応すると背中にダメージが来る。
何このSMプレイ。
「本当に私のミスを取り返してくれたね。ありがとう」
良かった。
西堀さんが責任を負うことにはならなかったということは、やはり決勝には行けたんだ。
それならこの痛みも名誉の負傷って感じがして悪くない。
「そ、それとさ、有村君……すごく……かっこよかったよ」
西堀さんはそう言うと、離れて後ろを向く。
「まぁ、それだけ言いたかったの、じゃあね」
逃げるように保健室から出ていく西堀さん。
顔赤くなってた気がしたけど、大丈夫なのだろうか。
それにしてもかっこいいかぁ。
明日香以外の人にそう言ってもらえるなん……て……。
かっこいいって言って、顔が赤い……?
西堀さん、もしかして僕のこと好きなの!?
……いや、冷静になれ、思い上がるな優。
判断材料が少なすぎる。
生きてきてこれまでそんな経験は明日香しか無いのにそんなぽんぽん僕のことを好きになる女の子が出てくる訳が無いだろ。
お礼言いたかっただけだきっと、かっこいいはお世辞だろう。
勝手にそう解釈することにした。
「優、大丈夫?」
今度は明日香がカーテンを開け、入ってくる。
「俺は平気だよ。明日香こそ、大丈夫?」
「私も平気。少し頑張って疲れただけだから。休んだら復活したよ」
良かった。
「それよりさ、西堀さんが顔赤くして保健室から出ていったけど、さっき何話してたの?」
「ミスを取り返してくれてありがとうって」
「それだけ?」
「その後にお世辞でかっこよかったよって」
「ふーん」
なにその顔。
私以外の女の子から誉められてうれしかったんだ?へーそうですか、みたいな顔やめて。
「まぁ実際かっこよかったし、今回は仕方ないか。……偉かったぞ、優」
そう言って、明日香は頭を撫でてくれる。
至福の時間だ。
そんな時間を楽しんでいると、再びガラガラと扉が開く。
「大丈夫か、エビデンー」
「有村君、どんな感じ?」
あ。
カーテン開けっぱ……。
明日香に撫でられているところを恋と福田君にガッツリ見られた。
「邪魔したみてぇだな」
「ごめん。ごゆっくり」
扉を閉めて帰ろうとする二人。
「邪魔じゃないから!戻ってきて!」
そんなやり取りをしてる内にチャイムが鳴り、球技大会は終わりを告げた――。
夕日が沈み始めた、帰り道。
「隙あらば、いちゃつくよなお前ら」
「本当に仲良いね」
「良いですよね」
恋、福田君、弦本さんがそう言うのに対して、明日香はそうでしょと威張っている。
威張ることじゃないぞ明日香、かわいいけども。
「……にしても優勝したかったな」
恋がため息混じりにそう言うと、福田君もそうだねと同意する。
結果として球技大会は準優勝だったらしい。
決勝戦で1-Dに女子が2-2の引き分け、男子が0-1で負けて、2-3で敗北。
福田君が3人にマークされ、動けず。
司令塔からのパス供給を失ったチームは防戦一方で終了間際に失点。
まぁ、準優勝なら御の字だろう。
「そういえば有村君、俺の事、福って呼んだよね」
試合中に言ったなぁ……。
気にくわなかっただろうか。
「嫌だった?」
「むしろ逆、福、でも福ちゃんでもどんどん呼んで。福田君だと距離感じるしさ。俺も有村君じゃなくて、他の名前で呼ぶよ」
「優だと高憧さんに申し訳ないし、エビデンは恋のだしなぁ、有村有村……あり、そん……アリソンはどう?」
アリソン……。
福のネーミングセンスもなんというかあれだ……。
また外国人みたいな名前のあだ名が出来た。
「まぁなんでも良いよ。じゃあ俺は福って呼ぶね。あと、恋と福にお願いがあるんだけどさ」
「「ん?」」
ずっと心の中に秘めていたが今日の球技大会でより一層、そうなって欲しいと思えた。
「二人とも俺と友達になってください!」
二人が顔を見合せるとため息をつく恋。
「おい、エビデン。友達じゃねぇだろ」
そっか……僕だけだったのか友達になれると思ってたのは……。
「友達なんてとっくになってる。親友になろうだろ。こういうのはなろうとか言うもんじゃねぇけどな」
親友……。
そっか、そうなんだ。
とっくに友達だったんだ。
友達いたこと無かったから全然分からなかったや。
あれ、おかしいな嬉しいのに涙が出てくる。
「だ、大丈夫かエビデン」
「あ、ありむ……じゃなかったアリソン大丈夫?」
「大丈夫!嬉しいだけだから」
制服の袖で涙を拭き取る。
「改めてよろしくね。恋、福」
「おう」
「よろしく」
三人で肩を組み、並んで歩く。
泣くなよとか今度三人で遊ぼうとか恋も福も言ってくれる。
これが友達か……。
本当に出来たんだと喜びを噛み締める。
「良かったね、優。友達出来て、私も友達居ないし、頑張らないとなぁ」
後方で明日香がそんなことを言うと、
「高憧さん。こんなこというのあれですけど、私、友達のつもりだったんですが……」
弦本さんが申し訳なさそうに答えていた。
「そうなの!やったー!ありがとう舞ちゃん。すごく嬉しい」
「私も嬉しいです。あ、明日香ちゃん……」
「ちゃん付けで呼んでくれるの!?かわいいなぁ、もう」
そう言って弦本さんを抱き締める明日香。
良かったね明日香、友達出来て。
色々あった球技大会だったが、頑張って良かった。
そう思えた瞬間だった。
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