第28話 球技大会③

恋がボールを自陣に向かって蹴り出し、キックオフ。

とりあえず相手の出方を伺うために後方でパスを回す。


相手も4-2-3-1のフォーメーション。

鏡に映したのように全く同じ配置となりミラーゲームとなった。


相手は積極的にボールを取りに来ない。

女子チームのおかげで1点アドバンテージがあるため、守りを固めていれば勝つことが出来るからだろう。

既に前線の恋には現役サッカー部の3人の内2人がマークしており、明らかに警戒されているのが分かる。


恋が警戒されているということは他の誰かがフリーになりやすいということだ。

幸い僕はサッカー部でも何でもない奴と思われているおかげでマークは1人、恐らくサッカー未経験者だ。

全く警戒されていない。

それなら……


福田君にボールが渡った。

この瞬間、福田君がパスを出しやすい位置に移動し、パスを求める。


求めた瞬間にパスが来た。

流石は福田君だ。

僕はトラップしたと同時にターンして、マークを振り切る。

目の前には相手ディフェンダーが1人、恋の方に2人。


「ヤバい!1人行け」


残ってたもう1人のサッカー部員が恋のマークをしてる2人に指示を出す。

慌てて、恋のマークをしてたサッカー部員の1人が来る。

おかげで恋が動きやすくなった。

恋と目線が合う。

アイコンタクトをして恋が動き出した。


ここだ!

僕はすかさず右足のアウトサイドでパスを出す。

ボールは目の前のディフェンダーの股下を抜け、弧を描いて、恋の足元へピタリと収まる。

恋は相手のディフェンダーを右手でブロックしながらシュートを放つとボールはゴールの左隅に突き刺さった。


「エビデン、ナイスパス!よく股下通したな」


「恋こそ、決めてくれてありがとう!流石は得点王」


「あんなボール貰ったら決めなきゃ男じゃないぜ」


ふふんと鼻をならし、威張る恋。


「2人共にナイスプレー!でもここからだよ。勝ちにいくよ」


福田君が誉めつつも気を引き締めてくれる。

そうだった、まだ同点になっただけだ。

油断は全然出来ない。

それに、相手もアドバンテージが無くなったからには攻めてくるはずだ。

ここからが本番だと思わなくては……。


相手ボールでキックオフ。

案の定相手は攻めてきた。

恋のマークを2人から1人にして、守備よりも攻撃に比重を置く。


だがしかし、思ったよりも攻めきれてはいない。

守備陣のプレッシャーがすごく、相手のサッカー部員を困らせていた。


「なんだこいつら、本当に初心者か!?」


ねちっこく、しぶとい守備。

これは女子を追いかけ回して身に付いたものだ。

それにいつもより気合いが入っている。

西堀さんの涙が効いているのかもしれない。

加えて、福田君が適切に守備陣に指示を出し、サポートしている。


どんどん相手を追い込んでいき、ついにミスを誘った。

ボールが僕の足元に転がって来る。

前を向くと恋が走り出してパスを要求していたが、それ以上に相手のゴールキーパーが前に出ているのが見えた。

迷ってる暇は無い、距離はあるが僕はそのままシュートを放つ。

ボールは恋も相手ゴールキーパーも越えゴールへ一直線に飛んでいく。


入れ……入れ!


カーン!


願いとは裏腹にボールはクロスバーを叩き、高い音を出してピッチ外に出てしまう。

惜しかった……。

後ボール1つ分下だったら……。


悔しがっていると、相手のサッカー部員の1人がマークしに来た。

ついに僕も警戒されてしまったようだ――。


その後はボールを受け取りたくて、移動しても完全についてこられ、なかなかボールに触れない。

福田君も不用意なパスはせず、自陣でボールを回す時間が長くなっていた。

残り時間は2分、女子のスコアと合わせて同点のためこのままだとPK戦になる。


その時だった。

突然相手の攻撃陣が猛烈にプレッシャーをかけ、福田君に襲いかかる。


この時間に点を取ればほぼ決着がついてしまう。

これを狙っていたのか。

既にパスコースは塞がれ、福田君もボールをキープするのがやっとだ。

まずい、かなりまずい……。

流石の福田君でもこのままだと、ボールを取られるのも時間の問題。


なにか突破口は無いだろうか。

辺りを見回して、探してみる。

そういえばさっきよりマークが緩い?

相手チームは前に意識が行きすぎているのか、さっきよりもぴったりとマークしていなかった。

恋の方もそのようだった。

恋と再びアイコンタクトをし、お互い頷く。


チャンスは一瞬、正確に素早く福田君に知らせなければ。

サイドの方に逃げていく福田君、もう少しでタッチラインを越えスローインになりそう……この瞬間だ!


「福!恋フリー!ロングボール!」


僕が指示を出した瞬間に思いっきりボールを蹴る、福田君。

それに合わせて飛び出す恋、僕も走ってゴール前に向かう。


あの体勢からのパスだったためか、少し高くなってしまっている。

トラップするとディフェンダーに追い付かれ恋がそのまま打つことは出来ない。


「恋!落として!」


恋はヘディングで走り込んできた僕にボールを落とす。


「わりぃ!」


恋は意図したところにボールを落とせなかったのだろう。

僕の前ではなく、ほぼ真横からボールが来る。

しかも、ボールは胸くらいの高さ。

打てない。

でも打たないと後ろからディフェンダーが追ってきてる。

どうしようどうしようどうしよう……。


その時、頭の中で1つだけ思い浮かんだ。

ずっとやってみたかった技。

1人では練習出来なかったあの技。

僕は昔からこれに憧れていた。


僕は後ろを向き、胸でボールを弾ませるようにトラップする。

ボールは僕の頭より高く上がり、空中に止まってるように見える。

すかさず足を振り上げ、ボールに足を当てることだけを意識した。

目一杯伸ばした足にボールが当たる。

蹴られたボールはゴールキーパーの横を抜け、ゴールネットを揺らした。


出来た……オーバーヘッド……。

それを見届けると同時に背中から地面に叩きつけられた。


「……おい!エビデン!大丈夫か!」


かすかに恋の声とホイッスルの音が聞こえるが意識が遠退いていく……。



※近況ノートにタッチライン等の解説を雑ですがあげてあります。分からないかたは是非ご覧ください。

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