第26話 球技大会①
迎えた金曜日、球技大会当日。
天気は快晴、心地良い春風が吹き、まさに運動日和という感じの天気だ。
明日香や弦本さんのゴールラッシュだったベンチ組の練習は、あの一件以降、攻撃と守備が拮抗する、内容の濃い、良い練習となった。
特に西堀さん達のチームワークに磨きがかかり、前よりもコンパクトな守備で明日香を苦しめ、ボールを奪えば守備陣みんなでハイタッチし、笑顔を見せるようになった。
ボールを奪われた明日香も悔しそうにしてはいたが嬉しそうでもあり、とても良い空気感でやれていた。
このチームはやれる。
そんな確信を持って、球技大会を迎えた。
「じゃあ、今からトーナメントの抽選するぞ。クラス委員は男女どっちでもいいから集まってくれ」
体育教師がそう告げ、次々と各クラス委員の男子が集まる。
ここは他のクラス同様、僕が行った方が良いと判断して、体育教師の元へ向かう。
「シード引いてこいよ、エビデン!」
後ろから恋がそんなことを言っているが僕そんなにくじ運無いんだよなぁ。
そんな簡単に引ける訳……。
引けた。
フラグって……大事だね。
これで我らが1-Cは4位以上が確定。
1-Aと1-Eの勝利した方と戦うことになった。
――1回戦と言う名の準々決勝がキックオフし、グラウンドが騒がしくなる。
次の試合をするチームが得点板の担当とのことなので、僕と恋が対戦相手の偵察がてら、得点板の担当に名乗り出た。
「まぁ、多分1-Aだろうな。女子はうちらみたいに運動部多いし、男子はサッカー部3人いるし」
恋が得点板に寄りかかりながらそう言う。
「そのサッカー部3人って上手い人達なの?」
「俺も戦ったのかなり前だしな、今は知らねぇけど当時は普通くらいだったぜ。ブランクのある俺と同等かそれ以上、福ちゃん未満って感じじゃね」
「いや、全然ラブちゃんの方が上手いよ。昔から言ってるけどラブちゃんの決定力、異常だからね」
近くにいた福田君が話に入ってきた。
得点王取るくらいのFWだもんね……。
「おいおい、照れるだろうが……もっと誉めて良いぜ。後、ラブちゃん言うなて」
「それとうちのクラス徹底的に守備仕込んだからね。球技大会レベルのチームではないと思うよ」
確かに。
特に男子は恋と福田君でしごかれていたことに加えて、女子のパス回しからボールを取るために走り回っていた。
サッカー初心者みたいな守備ではないかも知れない。
「お、そろそろ終わりそうだ。4-1だし、やっぱ対戦相手は1-Aだな。エビデン、そろそろ女子チームのところに行って気合い入れてこい」
「でも福田君がスタメン組指導してたし、俺まだ得点板やんなきゃ」
「大丈夫、あのチームは有村君のチームだよ。俺、スタメン組に基礎しか教えただけで、ほとんど男子チームしごいてたし。得点板は俺が代わりにやっとくから行ってきてあげて」
そう言われると行くしかないよね。
「うん、ありがとう。行ってくる」
そう言って僕は女子チームの元へ行った。
「あ、コーチ!」
「有村コーチきた!」
「練習中に彼女といちゃつくコーチきた!」
なんかコーチ呼び浸透してる……。
てか最後のなんだ!
呼んだ奴出てきなさい。
みんなの前で明日香の頭撫でたからそんなこと言われるんだろうけどさ……。
恥ずかしいから勘弁してほしい。
おっほんと咳払いして、僕が話し出す。
「えー、まず約2週間、指導についてきてくれてありがとうございました。最初の頃はみんな本当に酷くて、このチームじゃ勝てないし、みんなが楽しめないと思っていました」
「正直すぎるぞー」
「それでも指導者かー」
「おじさんみたいな喋り方だぞー」
ヤジを飛ばさないの。
もうちょっと女の子らしくしててね、みんな。
後、最後の言った奴、さっき言った奴と一緒だろ。
出てこいや!
地味に傷ついてるからな!
「ですが、今では男子がボールを取りに来ても、焦らずパスを回せるようになり、攻撃も守備もバランス良くなりました。もうみんなはそこら辺の女子より普通に上手いです。自信を持ってください」
「これから試合ですが、試合に向けて3つアドバイスします。1つ、まず落ち着いて」
最初の頃みたいにあたふたせず、しっかりと状況を確認してパス回しが出来れば危ないシーンは少ないはずだ。
「2つ、ミスしてもチームで助け合って」
言った瞬間に西堀さんと目が合う。
僕がこくりと少しだけ頷くような仕草をすると、顔を赤くして下を向いてしまった。
照れちゃったのかな。
「3つ、これが一番大切。みんな楽しんでいきましょう」
「「「はい!」」」
良い返事。
みんな楽しまないとね。
勝ち負けも大事だけどなんのためにやんのかって言ったら楽しむためだし。
勝って、楽しんで、仲良くなれたら、最高だけどね。
「じゃあ、みんな頑張って」
こうして女子チームは試合へと繰り出していった。
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