第25話 笑顔を見せて

「明日香はね。今は元気だけど、重い病気だったんだ」


「「「え?」」」


思わず驚く4人。

西堀さんも顔を上げた。


「中学2年生になってからようやく学校に通えるようになったけど卒業するまで保健室登校で同世代の人とほとんど喋ったことが無いから、人との距離感もあまり分かってないんだ」


「だからさっき西堀さんが言ったけど、上から言ってるように聞こえる時もあるし、配慮に欠ける時もある。でも本人は決して悪気があるわけじゃくて、明日香もみんなとの話し方をさぐさぐりでしているところなんだ。だから許してあげて欲しい」


頭を下げて僕はそう言った。


「あと、明日香は気持ちなんて分からないって言ったけど、明日香は今も心臓に疾患があって、長い時間動けない。まともに体を動かしたのも先週が初めてなんだ。だから自由に体を動かせる西堀さん達の気持ちは分からないって意味だと思う」


「心臓に疾患……」

「え?あれで運動始めたばっか」

「天才だ」

「私達も高憧さんの気持ち分からなかったね」


4人が各々おのおの口を開く中、


「やっぱ私、最低じゃん……」


ついに西堀さんが口を開いた。


「そんなこと言われて、今さらどんな顔して高憧さんに会えば良いの!」


西堀さんの目から涙が1つ、2つと溢れ、泣き出す。


「西堀さん、明日香はね。ずっと西堀さん達の事、気にしてたんだ」


え?

という感じで西堀さんがこちらを見上げる。


「西堀さん達が球技大会の練習が始まってから笑わなくなったって、だから笑顔にしてあげたいって。なんなら西堀さん達がグラウンドから出た後もどうしたら笑顔にしてあげれるかなって言ってたよ。だから笑顔を見せてあげると喜ぶと思う」


「でも私達、サッカーを楽しいとは思えない。本当に下手だし、足引っ張るし……」


「下手でも足引っ張っても良いんだよ。サッカーはチームでやるんだから。もし西堀さんがミスしても俺が取り返すよ」


僕が笑顔でそう言って手を差し出す。

ていうか、俺らが取り返すって言おうとしたけど"ら"が抜けちゃった……まぁいいか。


少し間を置いて、西堀さんが僕の差し出した手を掴み立ち上がる。


「私なりに頑張るけど、ダメだった時は、その……有村君、よろしくね」


「うん、任せといて」


これで西堀さんの負担を少しでも背負えただろうか。

心なしか西堀さんの表情が柔らかくなった気がする。


「絢ちゃん……もしかして」

「あれってそうだよね……」

「高憧さん相手には厳しいよ絢ちゃん……」

「メスの顔や……」


なんか後ろ4人がこそこそ喋っているがよく聞こえない。

とりあえずグラウンドへ戻ろう。

そう思い、僕らは歩き出した――。


「有村君と高憧さんって、やっぱり付き合ってるの?」


グラウンドに行く途中でそんな話になる。


「そんな野暮なこと聞く?」

「あれで付き合ってなかったらおかしいって」

「授業中に頭撫でてるんだよ」


頬が熱くなる。

恥ずかしすぎるでしょこれ。


「で、どうなの付き合ってるの?」


「"まだ"付き合ってないよ」


「まだ?」


「俺が返事を保留にさせて貰ってる」


「うわ、キープ」

「さいってー」

「女の子が勇気だして告白したのに!?」

「高憧さん可哀想」


いや、返す言葉もございません。

最低だよね。

本当に。


「ふーん、そうなんだ」


西堀さんが興味無さそうに答える。

あれ、でも一瞬表情が明るくなったような……。

なんか他の4人もにやにやしてる。


そんなやり取りをしてるとグラウンドに着いた。


僕らの姿を見た瞬間、明日香と弦本さんが寄ってくる。


「優も西堀さん達もおかえり!」


「ただいま、明日香」


「お疲れ様、優」


いや、新婚夫婦みたいな会話。

お疲れ様の後にあなたとか言われてたら完全にそれ。

そんなバカみたいな事を思っていると


「「「高憧さん、ごめんなさい」」」

「私もごめんなさい。高憧さんの気持ちも考えずに酷いこと言って」


5人が並んで明日香にそう言って頭を下げる。


「大丈夫だよ!気にしてないから。私も悪かったし、顔を上げて」


明日香にそう言われ、西堀さん達は顔を上げる。

顔を上げた瞬間、びっくりしたように固まる西堀さん達。


なんと明日香が自分で顔を引っ張って変顔をしていた。


「明日香……なにやってるの?」


「え、変顔だよ」


「いや、それは見れば分かるけど何で今?」


「顔上げた瞬間にこんな顔があれば西堀さん達も笑えるかなって思って」


明日香なりに考えた結果がこれか……。

頑張った、頑張ったよ明日香。

もうやめよう、ていうかやめてください。

僕も恥ずかしくなる。


「……っふふ」


西堀さん!?


「ごめんごめん……こういう空気、私耐えられなくてさ」


「ありがとね、高憧さん笑わせようとしてくれて」


「ううん。こちらこそ西堀さんの笑顔見れて嬉しいよ。ありがとう」


気づけばみんながにっこりしている。

良かったね、明日香。

西堀さん達の笑った顔見れて。


「じゃあそろそろ練習再開しようか」


「えー、結局練習するの」


全然さっきと違う人みたい。

これが素の西堀さんなのかな。


「西堀さん、私なりに頑張るって言ったでしょ。頑張って」


「ちぇっ……高憧さん、ダメだったら助けてね」


そう言って、西堀さんは握った拳を明日香に向ける


「おうともよ、でも練習では助けられないなぁ。私、シュート決めたいし」


明日香も答えるように握った拳を西堀さんの差し出した拳にコツンと当てる。


「言ったなー、先ほどまでの私達と思うなよ。みんなもっと感覚狭めよー」


「「「ラジャー」」」


これからは良い練習になりそう。

そう思った瞬間だった。

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