第24話 分からないよ

今日もボールを追いかける男子の数を4人から5人に増やし、パス回しをしてから、スタメンとベンチに分かれて練習を始めた。


「じゃあ前回と同じように攻撃と守備に分かれてやってみよう」


そう言ってみたものの、前回同様、明日香と弦本さんがゴールネットを揺らしつづける。


「もう少し、間隔狭めて打ちにくくしよう」

「いいよ。その感じ!西堀さん良い動き」

「決められたけど、前回より良くなってるよ」


とにかく僕に出来ることはこうしてアドバイスや誉めるしかない。

そう思って声を出し続けているが、西堀さん達の顔はむしろ険しくなっている。


「西堀さん、もう少し前に出た方が私打ちづらいよ」


明日香がそう言った瞬間だった。


「もういいよ!」


西堀さんが今までの口調とは一変して叫んだ。


「言ってるじゃん。私達は下手だって」


「出来ないんだからさ、放っておいてよ」


「球技大会くらいでそんなに一生懸命になってるの。別に良いじゃん負けたって」


「みんなが頑張ろうとするから、負けた時の責任が私達みたいな下手っぴに来るんだよ」


西堀さんの言うことも分かる。

結局はみんなが頑張ったのに自分がミスして負けた時、責任が来るのが嫌だということだ。

もちろん西堀さん達だって、頑張っている。

それでも自分は下手だ、向いていないっていうことが自分自身、分かっているからこういう発言が出てしまうのだろう。


「でも、西堀さん達確実に上手くなってるよ。私、前より打ちにくいし」


「お世辞はいいよ、高憧さん」


「お世辞なんかじゃ……」


「あなたに言われるのが一番むかつくの!」


再び西堀さんの叫びがグラウンドに響く、


「……高憧さんは出来るじゃん。私達は出来ないの」


「どうせ見下してるんでしょ。私が助けてあげるだもんね。そんなこと言う人に私達の気持ちなんて分かるわけ無いよ」


そう言ってグラウンドから西堀さんは出ていってしまった。

きっつぅ……。

明日香の西堀さんに笑顔になって欲しいっていう思いを知ってるだけにこの言葉はかなりきつく感じてしまう。


「ごめんね。私、分からないや。みんなの気持ち」


そう言うと、他の4人も西堀さんを追いかけるようにグラウンドから出ていってしまった。


「大丈夫、明日香?」

「高憧さん大丈夫ですか?」


僕と弦本さんが心配して駆け寄ると、


「ありがとう、優、舞ちゃん。全然平気だよ」


あれ?思ったよりけろっとしてる。


「優や舞ちゃんには分かる?西堀さん達の気持ち。私、運動歴1週間だからさ、こういう時の気持ちよく分からなくて」


「高憧さんって、そんなに運動したことなかったんですか!?」


弦本さんがびっくりしている。

まぁそりゃそうだよな。

僕もあの動きを見た後にそれ言われたら腰を抜かす。


「病気だったからね。えへへ、びっくりした?」


気さくにそう話す明日香。

本当にかわいい奴め。


「困ったなぁ、どうやったら西堀さん達が笑顔になれるかなぁ」


なんていうメンタル……。

あれだけ言われたのにまだ西堀さんの心配してるのね。

本当にすごい子だよ、明日香は。

そう思ったら自然と明日香の頭に手が伸びて、撫でていた。


「……どしたの、優」


「偉いなぁと思ったから撫でたんだけどダメだった?」


「……いや、正解。成長してるねぇ優」


んふーと満足そうにしている明日香、犬みたいだなこれ。


とにかく西堀さん達が戻ってこないと練習にならないし、西堀さん達が抱く明日香の印象を変えてあげたい。


「ねぇ、明日香。明日香の身体の事とか西堀さん達に話していい?」


「いいよ。じゃあ優に西堀さん達のこと任せてもいい?」


「うん、任しといて」


そう言って、僕もグラウンドを出ようとする。

すると背後から明日香が急に抱きついた。

え?

何してるの明日香さん。

弦本さん、めっちゃ見てるよ?

あたふたしてる弦本さん、ちょっとかわいい。


「ありがとう……優」


いつもより元気が無さそうにそう耳元でささやく明日香。

……なにが全然大丈夫だよ。

強がんなくて良いのに。


「明日香、球技大会終わったらデート行こうか」


「いいの?」


「いいもなにも、俺が行きたいんだけど、ダメかな」 


「行く!」


明日香の声音が戻る。

現金な奴め。

でも、やっぱ明日香は元気な方が良い。


「とりあえず西堀さん達とお話ししてくるよ」


「うん。よろしくね、優」


そう言って離れる明日香。


明日香のためにも必ず西堀さん達と和解する。

そう決心して僕は再びグラウンドの外へと歩を進めた。


――西堀さん達はどこに行ったのだろう。

少なくとも玄関には居なかったのでまだ外に居るはずだ。

外になんて後は体育館倉庫位しか無いんだけどな。

そう思いながら体育館倉庫の方へ向かうと、なにやら声がする。


「私、言い過ぎだったよね。高憧さんに酷いこと言っちゃった」

「ごめんね、あやちゃん。私達が何も言えないから全部言わせちゃって」

「本当にごめん。絢ちゃんは私達を守ってくれたんだから、悪くないよ」


西堀さんを囲むように他の4人が慰めているが中央にいる西堀さんは体育座りをして、自分の太ももに顔を埋めるようにしていた。


西堀さん、本当に責任感が強い。

さっきも負けた時の責任が、とか言ってたし、背負い過ぎるタイプなんだ。

……僕と同じだ。


でも僕には今、明日香がいてくれる。

明日香も背負ってくれてる。

明日香が背負ってくれたように、僕も誰かのためにしてあげたい。


そう思うと西堀さん達の方向へ歩き出していた。

4人が気づいて、身構える。


「どうしたの有村君。高憧さんに言われて来たの?」

「私達、さっきも絢ちゃんが言ったけどサッカー出来ないよ」

「練習しても足引っ張ちゃうから」

「放っておいてよ」


今度は西堀さんを庇うように4人が僕にそう話す。

西堀さんはまだ、顔を上げない。


「ごめん。みんなの事分かってあげられなくて」


「無理に戻ってきてとは言わないけど、1つだけ知っていて欲しいんだ。多分みんな誤解してるから」


「なにを?」


1人の子がそう聞いた。


「明日香の事だよ」


僕はそう言うと明日香の過去について話し出した。

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