第22話 コーチ
「有村君は高憧さんのどこが好きなの?」
「有村君、高憧さんとどんな感じ?ぶっちゃけどこまでいったの?」
「やめなよ、野暮なこと聞かないの」
「顔赤くしてるんだけど、かわいいー」
なんでこんなことになってるんだろう。
グラウンドに出て、女子チームの所に行き、しばらく女子チームのコーチをすることになりました。
そう挨拶しに来たら、何故かクラスの女子達に囲まれた。
助けて明日香……。
明日香の方を見ると不機嫌そうに口を尖らせ、ふんっとそっぽを向く。
拗ねちゃって、かわいい奴め……なんてやってる場合じゃない、また男子達のヘイトが僕に向いてしまう。
「練習!練習やりましょう!とりあえずみんなコートに入って、前後左右3m位に人が居ないようにしてください」
白線で引かれたサッカーコートに女子達が入り、僕の指示通り、間隔を取る。
「今からみんなには1つのボールで自分のゴールキーパーの位置から相手のゴールキーパーの位置までパスを繋いで貰います」
「ただ、それだけでは簡単なので男子がボールを奪いに来ます。ボールを奪われないようにパスを繋いで相手ゴールを目指してください」
こうして飢えた獣のような男子達が3人がコートに放たれた。
ちなみに残った男達は出番をまだかまだかと期待しながら、恋と福田君にしごかれている。
まぁ最初なので18対3だったら女子も簡単にゴール出来るだろう。
そう思っていたのだが……。
中盤にすらいけずボールを刈り取られてしまった。
途中からボールを持つ女子が草食動物で男達がハイエナでのように見え、まさに狩りを見てるかのようだった。
やはり、運動部志望の子とそうでない子に少し差があるように感じる。
とりあえずコーチらしく、アドバイスしてみよう。
「味方は前後左右にいっぱいいるからね。相手ゴールのある、前だけじゃなくて後ろに戻しても良いんだよ。もし男子が来ても、焦らないで味方のいる方向にとりあえず蹴ってみよう。そこら辺踏まえてもう一回やろうか」
「「「はい!」」」
運動部のコーチっていいな。
こんな気持ちの良い返事を毎日のように聞けるのか。
あ、そうだ男子も交代させなきゃ。
「3人は次の男達呼んできて」
「有村さん、あざっした!呼んできます」
なんか変な関係になっちゃったな……。
部活の先輩後輩じゃないんだから……。
次の男子3人が来たところで練習を再開する。
「足だけじゃなくて、手も振って大きく蹴ってみよう、そうそう良い感じ」
「左右空いてるよ、ナイスパス、今がチャンスだよ前に出そう」
「そこの男子、女子への過度なタッチはレッドカード出すよ」
普段からあんまり大声出すことないから喉枯れそう……。
にしても男子3人相手になら、ゴール出来るようになってきた。
運動部志望でポテンシャルを秘めてる女子が多いこともあり、慣れさえすれば上達が速い。
この調子なら本当に良いところまでいけそう、優勝も夢じゃない。
「はい、じゃあこの練習は終わり、次やるときは男子の人数増やすからね。今日は軽くシュート練習して終わろうか」
「「「はい!」」」
もうすぐ授業時間も終わりだ。
コーチ就任初日から大変だったな、なんて思っていると、
「コーチ、シュートのお手本見せてください」
と後ろから呼び掛けられた
コーチ呼びっていいなぁ……。
「うん、いいよ」
そう言って振り返ると、居たのは明日香だった。
「他の女の子に夢中になっちゃってさ。私の事忘れてたでしょ」
まだ不機嫌そうにしている。
拗ねてる明日香すごく好き。
別に他の女の子に夢中になってた訳じゃなくて、指導するために見てただけなんだけどな。
「ちゃんと明日香の事見てたよ。トラップも上手だったし、みんながパス出しやすいように動いてたね。偉い偉い」
まだ不満足そうだ。
「……偉いって思うなら撫でて」
そう言って明日香は頭を少し前に差し出す。
家とかじゃなくて、こんなところでさせるの?
周り女子だらけなんだけど……。
やるしかないんだろうなぁ。
諦めて明日香の頭を撫でる。
にへへと笑う明日香。
本当にかわいい奴め。
明日香の髪の毛さらさらしてて、撫でる度に良い香りがする。
この至福の時間をもう少し楽しみたいけど周りがざわざわし出したのでここまでにしよう。
「今日のところはこれで許してあげる。でもシュート見せて、お手本にしたいからさ」
「はいよ。仰せのままに」
と返事をして目の前にあるボールを少し前に転がす。
少しの助走からインサイドでボールを
良かった上手くいった……。
「これでいいかな」
「うん、ありがと優。かっこいいぞ」
明日香がそう言うと同時にチャイムが鳴り響く。
だから不意に誉めるのはずるいよ。
デートの時もそうだったが、この子はこういうことするんだから……。
「授業終わったし、戻ろ?」
うんと頷き、明日香と並んで歩く。
いつか絶対不意打ちくらわせてやるからなと心に誓い、僕らはグラウンドを出た。
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