第21話 男って……


僕と明日香、テーブルを挟んで恋と福田君。

4人で球技大会についての話し合いがようやく始まろうとしていた。

僕と明日香の同棲問題に時間を取られたため、もう既に日が落ち始めており、なるべく早く終わらせないと恋や福田君に申し訳ない。

この話の核心に触れて、スムーズに終わるようにしようと思い、僕が話し始める。


「一番の問題点だけど、女子が団子サッカーになってて、ボールに蹴りたい人と蹴れない人に分かれてることだよね」


「まぁ、そうだよなぁ。男の俺達も連携はそれほど取れてねぇけど女子達は結構くっきりと分かれてたもんな」


「そうだね。ボールを蹴りたい人と蹴りたくても蹴りに行けない人って感じだったね」


恋と福田君が口を揃えて言う。

そこをどうにかしないとチームプレイなんて無理だし、溝が出来てしまう。


あれ?

そういえば明日香はあの時、割とボール触れてたような……。


「明日香はミニゲームの時さ、結構ボール触れてたよね。あの時、何考えてたの」


「あー、あれはね優達の動き真似してたの。3人はさ、パス練習の時、パスを出しやすい所に移動してたでしょ」


「「「……」」」


僕含め3人ともポカーンとしてしまう。

本当にこの子は……。

普通の女子はそんなとこ、そもそも気づかなそうだけど、そこに気づいて、実践できてる辺りが明日香のセンスを物語っている。

本当に学習能力が高い。


「高憧さん。パス出して貰えたの?偶然自分の足元にボールが転がってきたとかじゃなくて」


「パス貰えた……と思うよ。目が合った瞬間にボールを私の方向に蹴ってくれたし」


運動部の子達もパスを出さない訳じゃないのか。

ただボールを蹴りたい、触りたいだけだと思っていたが、それなら団子サッカーにさえ、ならなければチームプレイが出来るかも知れない。


ならば解決方法はある。

これなら練習の時点でみんなが仲良くなれるきっかけが作れるかも……。


「なにか思い付いたのかい、有村君」


福田君の問いに対して頷き、口を開く


「ねぇ、みんなこういうのはどうかな?」


「――それいいなエビデン!よし、男の方は俺に任しとけ」


「これなら確かに行けるかも。俺も協力するよ有村君」


「うん、良いと思うよ優」


3人とも納得してくれたみたいだが、一瞬明日香の顔が曇った気がした。

気のせいだと良いのだが――。


迎えた水曜日、再び練習の日がやってきた。

体育の時間は月、水、金曜日。

球技大会本番は来週の金曜日、時間があまりない。

この前考えたプランが上手くいくと良いのだが……。

そう思いながら教室でジャージに着替えていると、


「よく聞けい、お前ら」


恋が大きな声で喋り出した。


「今日から有村が女子のチームを付きっ切りでコーチする」


れ、恋?

急に名字で言われるとなんか新鮮……。

じゃなくて、ただでさえ、このクラスの男達から恨まれてる感じあるのにそんなこと言ったら……。


ほらめっちゃ見られてる。

ていうか睨まれてる。

僕、そのうちクラスメイトに刺されるんじゃないだろうか。


「恋、どういうこと。このままだと」


恋が手のひらをこっちの方に向けて僕の話を制止する。


「いいから、俺に任せておけ」


僕だけに聞こえる声でそう言うと、再び大きな声で恋が喋り出した。


「そんな有村からお前らに提案がある」


「女子の練習を手伝ってくれないか、だそうだ」


男子達がピクッと反応する。


「有村はこの球技大会でみんなに仲良くなって欲しい、特に女子と。だからそのために俺がごく自然な形で女子とのきっかけを作ってやると言っていた」


言ってないよ!?

言ってないからね!?

みんなに仲良くなって欲しいとは言ったけど、その他は全く言ってない。

恋……何を考えているんだろう。


「お前ら有村の事、高憧の件で嫌っているようだが、ここまで体張ってお前らのために舞台整えてくれようとしてるんだぜ?有村は漢の中の漢だろ!」


「こんなかっけぇ漢の提案に乗らなきゃ俺らも

漢じゃねぇよなぁ!」


「「「おおー!!!」」」


「女子チーム手伝って、きっかけ作ろうぜ!」


「「「おおー!!!」」」


異様な盛り上がりを見せる男達。

男って本当にバカだ。

でも、バカなくらいが面白いよね。


恋がこっちを向いてウインクしながら親指を立てている。

もしかして恋は僕をクラスの輪に戻すためにこんなことを……。

ありがとう恋。

僕も親指を立てて、にっこり笑う。


恋にここまでやって貰ったからには絶対成功させよう。

そう意気込んでグラウンドに出た。

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