第19話 洒落にならん
「ただいま」
「「お邪魔しまーす」」
僕に続いて恋と福田君が我が家に入る。
明日香の靴は……よし、どうやらちゃんと隠してくれたらしい。
二人をリビングに案内し、口を開いた。
「そこら辺にくつろいで。飲み物、お茶とコーヒーとりんごジュースどれが良い?」
「俺はりんごジュース、福ちゃんは?」
「アイスコーヒー、ブラックでお願いしようかな」
「おっけ」
僕の分も入れたりんごジュース2つとコーヒーを配膳盆に乗せて、2人のところへ持っていく。
テーブルに飲み物を置き、床に座ったところで恋と福田君が辺りを見回していることに気づいた。
「どうしたの二人とも」
「エビデンさ、ここに来る途中、親父さんと住んでて、親父さんは今、出張中で一人暮らしって言ったよな」
明日香と住んでるとは言えないし、リビングに簡易的とはいえ母さんの仏壇があるため、この設定にしたのだが、何か勘づかれただろうか。
「男1人でここまで綺麗なのすげぇな、俺だったら辺りに物散らばってるぞ」
「本当、すごいよね。
明日香が急いで掃除をしてくれたのだろう。
ルームフレグランスまで新しく出してくれていた。
サンキュー明日香。
ていうか福田君しっかり見てるな……。
ボランチなだけあって視野が広い。
「でも有村君……なんか隠してない?」
ギクゥ……。
何、福田君もエスパーなの?
それとも僕が顔に出やすいだけ?
「もう1人いるでしょ」
ギクギクゥ!
まじでエスパーなの福田君。
なんで分かるの。
「福ちゃん、なんでエビデンの他にもう1人いると思ったんだ?」
恋!
ナイス質問!
「まぁ、理由は3つあるんだけどさ、1つ目は1人で暮らしてるはずなのに今朝使ったであろう茶碗とお椀が2つずつ水切りかごに置いてあること」
やってるわ……それは見落としてた。
本当に視野広いな……。
「あ、本当だ。よく見てんなー福ちゃん。じゃあ、2つ目は」
「有村君さ、学校でメッセージしてたみたいだったけど誰に許可取ってたの?出張しているお父さんに友達来るけどいい?なんて聞くかなと思って」
鋭い。
確かに不自然だ。
「確かにな。聞く家庭もあるかもしれないけど、誰も家にいないって分かってるなら俺は連絡いれずに多分家入れるわ。じゃあ3つ目は」
「これはちょっと恋には言えないかな。有村君、ちょっと耳貸して」
恋には言えない?
何故だろう。
そう思いながらも恐る恐る福田君に近づくと、福田君は僕の耳を手で囲って喋り出した。
「女の子でしょ、一緒にいるの」
ゾワッとした。
鳥肌が一斉に立つ。
福田君から少し離れて、引き気味の表情で
「……なんで分かったの」
と聞くと、福田君は再び近づいて耳打ちをするように喋り出す。
「ここに来るとき外から2階のベランダに洗濯物が干してあるのが見えたんだけどね。そこに有村君の物とは思えない物が見えたからさ。……もしかしてそういう趣味ある?」
首をぶんぶん横に振って否定する。
「あんまり見ないようにはしたけど目に入ったからさ……ごめんね」
明日香ぁ、詰め甘いよぉ……
でも、茶碗とお椀を片付けなかった僕も悪いからお互い様か。
それにしても福田君の気遣い素晴らし過ぎて好きになりそう。
あんまり見ないようにしてくれたみたいだし、恋には聞こえないようにしてくれてるし、やっぱイケメンは違うなぁ……。
「それでどうなんエビデン。その反応を見る限り、誰かいるってことでいいんだよな」
ぐぬぬ。
これもう詰んでるよね。
しかし、明日香と同棲していることをバレる訳には……。
「ほ、ほら球技大会について話し合おうよ!」
「エービーデーン、話逸らす辺り怪しいぞ、白状しちゃえよ。楽になろうぜ」
しまった、完全に悪手だった。
むしろ恋の興味を煽ってしまった。
これはもう致し方無しか……。
「実は……」
「まあまあラブちゃん、有村君も言えない事情があるんだろうしさ」
僕が言おうとしたのを遮るように福田君がフォローを入れてくれた。
もう好き!
福ちゃんって呼んじゃう。
「……そうだよな。ごめんなエビデン。俺はこの件に関してはもう聞かない。球技大会のこと喋ろうぜ」
恋……。
恋も本当に良い奴だ。
ラブちゃんって呼びたくなる。
「良かったね。有村君、高憧さんと住んでるのがバレなくて」
「「………………え?」」
「………………あ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
我が家に響き渡る恋の声。
おい福田ぁ!
洒落にならんて……
そもそもなんで明日香が住んでるの知ってるんだよ……。
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